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1-1-双子くんと柚木/パラレル番外編

■この番外編は抑制剤「サルベーション」が世に出る前、マスト(強烈な発情期)が存在しない、通常の発情期であるラットとヒートは存在している、という設定になっています ■比良くんが【比良柊一朗】【比良眞栖人】という双子になっています ■後半3P注意 「優しい人がいてくれてよかった」 四月の朝日にブラックの車体が艶めく外国車。 助手席に座っていた比良柊一朗はフロントガラス越しの光景に釘づけになっていた。 横断歩道の真ん中で堂々と横になっていた泥だらけの犬を抱き抱え、駆け足で来た道を戻っていった、近隣の高校の制服を着た少年に視線を奪われていた。 「と同じ制服ですね。彼も新入生でしょう。ひょっとすると迷い犬を保護してあげたのかもしれません」 運転席で同じく一部始終を目撃していたオメガの母親の言葉に比良は頷いた。 「お母さんの言う通り、きっと、とても優しい人に違いありません」 泥んこまみれの犬に満面の笑顔を向けている彼につられて、比良も、自然と笑みを浮かべた。 見知らぬ少年の人間性に感動し、仄かな昂揚感に胸を高鳴らせ、世にも優しいワンシーンを視界に刻みつけていたら。 「あーあ。新品の制服、初日の入学式から泥まみれにして可哀想に。買ってやった親も気の毒にな」 後部座席で悠々と寛いでいた双子の弟・眞栖人(ますと)の言葉に自然な笑みは苦笑へと変わった。 「同じクラスだったら泥くさくて最悪だ」 「眞栖人。そういう言い方はよくない」 「見ろよ、ヘラヘラしながら犬に話しかけてやがる。しかも学校と逆方向に向かってないか」 「飼い主を探しているんだろう」 「入学式に大層なことするモンだな。きっと変人なんだな」 車道の赤信号が点滅を始めて切り替わろうとしていた矢先に。 「なぁ、母さん、俺はここでいい」 比良は驚いた。 車から突然降りるなり、ガードレールを華麗に飛び越えて歩道を駆けていった眞栖人。 振り返り、犬を抱っこする彼の元へ向かっているとわかると、詰襟姿の比良は眉根を寄せた。 「危なっかしくて困った子ですね、眞栖人は」 母親の櫻哉は台詞の内容とは裏腹に柔らかく微笑し、双子の兄が進学する高校を目的地にして車をスタートさせた。 みるみる遠ざかっていく弟と、名前も知らない少年、二人が出会う瞬間は比良の視界に焼きつけられた……。

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