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水族館に隣接する広々とした芝生広場。
四月下旬、今日は比較的暖かく、爽やかな海風の吹き抜けていく日向では多くの人々がランチを楽しんでいた。
「双子だったなんて知らなかった」
柚木は木陰で眞栖人とお昼ごはんを食べていた。
「いちいち言うことじゃないからな」
「いちいち言うことだと思います! だって双子だよ? なかなかな情報じゃ!?」
「大した情報じゃない」
あっという間にベーグルサンドを平らげた眞栖人は、柚木が持ってきたレジャーシートの上で悠々と寝そべっていた。
「眞栖人くん、後でもう一回ラッコ見に行こ」
「そんなにラッコ好きなのかよ」
「好き!」
「……幼稚園児か、お前」
母親手づくりのお弁当を吟味していた柚木だが。
広場へやってきた比良に気づくと手を止めた。
「ほらほら、弟くん来たよ、しゅ……比良くんだよ」
会ったばかりで「柊一朗」と下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいかと、咄嗟に苗字で呼んだ柚木に眞栖人は無反応でいた。
明らかにアルファだとわかる華やかな集団。
その中心にいる比良は一際目立って見えた。
弟の眞栖人と同様、他者を魅了する特別なオーラがある。
彼らがいると誰もが引き立て役のモブに、何もかもがお飾りの背景と化すようだった。
「別格のアルファだなぁ」
「は?」
「顔はそっくりだけど、比良くんは誠実っていうか高潔っていうか」
「誠実でも高潔でもなくて悪かったな」
爽やかな海風にじゃれつかれて歩く比良を遠目に眺めていた柚木だが。
目が合った。
気のせいだろうと思ったが、彼が体ごとこちらを向いたので慌てて俯いた。
(ひぃぃ……こっち来る……)
「眞栖人」
(あ、眞栖人くんを見てたのか、自惚れちゃった、恥ずかしい、ちょっと今すぐ溶けてなくなりたい)
比良はアルファの集団から一人外れて柚木と眞栖人の元へ颯爽とやってきた。
木洩れ日を吸い込んで優しく煌めく黒曜石の瞳。
四月の陽気に温もる眼差しを双子の弟のクラスメートにそっと向ける。
「俺もお邪魔していいだろうか」
空と海の青、頭上に広がる新緑、天然の色彩に抱かれた比良を前にして柚木は口をパクパクさせた。
「勝手にお邪魔してろ」
キャップで顔を覆っていた眞栖人が代わりに答える。
白スニーカーを脱いだ比良はきちんと向きを揃え、チェック柄のレジャーシート上に座り込んだ。
「いつも弟の面倒を見てくれてありがとう、柚木」
話しかけられた柚木は……顔を真っ赤にした。
食べかけのお弁当に意味もなく視線を注いで首を左右に振った。
(なんだこれ)
眞栖人くんと双子のお兄さん。
さっき会ったばかりの比良くん。
(胸が苦しい)
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