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ラッコの前で初めて会ったときよりも鼓動が加速し、心臓が捩れるような息苦しい心地に柚木はぐっと唇を噛んだ。 「う」 つい声が洩れる。 異変を素早く察した眞栖人はキャップを持ち上げ、不自然に前屈みになって胸を押さえている柚木に目の色を変えた。 「柚木、どうした?」 俊敏に起き上がると硬直しているクラスメートに寄り添う。 「エビ天の尻尾でも喉に詰まらせたのかよ?」 他愛ない冗談を口にして少しでも気分が紛れるようにし、背中に手をあてがい、ゆっくりと擦った。 「先生、呼ぶか」 「っ……ぅぅ……」 「先生を呼ぶ必要はない」 柚木も眞栖人も、揃って比良を見た。 「やっぱり、そうだ」 近くで彼と目が合って柚木の心臓はまたしても強く強く震えた。 「ぅーーー……」 「大丈夫、柚木」 「ぅ……?」 「ゆっくり深呼吸するんだ」 背中にあてがわれた眞栖人の掌に少しばかり安心し、しかし比良と視線を交らせた途端、呼吸の仕方を忘れて窒息しそうになっていた柚木は。 比良に頭を撫でられて心臓の一部がどろりと溶けたような気がした。 (あれ、おれ、ほんとに溶けちゃった?) 「っ……はぁ……!」 「そう。息を吸って、吐いて、ゆっくり」 「っ……はーーー……はーーー……」 「そう。それでいい。きっと体がびっくりしたんだろう。でも、もう大丈夫だ。心配しなくていい」 柚木が呼吸の仕方を必死になって思い出そうとしている間、比良はその頭をずっと撫でていた。 発作でも起こしたみたいに苦しがっていたオメガは次第に落ち着きを取り戻していく。 華奢な背中に触れていた眞栖人は胸を撫で下ろし、次に双子の兄を見据えた。 「訳知り顔しやがって、どういうことだ、柊一朗」 苦しさの余り、柚木の目尻から溢れていた涙を指先で拭って比良は告げる。 「俺と柚木は番だ」 柚木も眞栖人も、揃って耳を疑った。 「運命で結ばれてる」 「は……運命の番なんて都市伝説だろうが、馬鹿馬鹿しい」 各学校の生徒のみならず、ただならない雰囲気に他の利用客もざわついている芝生広場の片隅で二人のアルファに挟み込まれたオメガ。 「君の心臓が君自身に教えてくれただろう?」 美しい凶器にも等しい、綻び一つない微笑みを翳されて柚木は息を呑んだ。 (おれと比良くんが番?) エビ天の尻尾を喉に詰まらせた方がまだマシなのでは。 こんな別格アルファと番だなんて恐れ多くて烏滸がましくってむりむりむりむり、ありえないよ、神様ーーーーー!!!!

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