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2-1-十六歳の誕生日

「誕生日おめでとう、柚木」 十月、秋晴れの土曜日、柚木は十六歳の誕生日を迎えた。 比良に連れていかれた老舗のそば処で天丼をご馳走してもらい、次に寄ったカフェでプレゼントまでもらい、柚木は大いに(かしこ)まる。 「はぇぇ……ありがたき幸せ……です」 日当たりのいい窓際のソファ席。 革張りのソファに腰かけた、チェスターコートにクリーム色のタートルネック、ジョガーパンツを履いた比良は恐縮しきっている柚木に柔らかく笑いかける。 「開けてみてくれるか?」 (こっんな人目のあるとこでプレゼント開けるとか、軽く拷問なのですが) カップルだったり友人同士だったり、繁盛している週末のカフェで柚木はぎこちなくリボンを解く。 「わぁ」 丁寧にラッピングされていたのを申し訳なさそうに剥がしていき、長方形の箱の蓋をパカリ、暖かそうなチェック柄の手袋に目を輝かせた。 「ありがとう、比良くん」 「今、してみてくれないか」 (ひぃぃ……プチ拷問……っ) 「せ、せっかくのプレゼントだし、汚したら怖いし、ウチでつけよっかな!」 「ウチでつけたら悪ガキ(けん)の大豆にボロボロにされるぞ」 比良の隣で踏ん反り返る、ランチにも同席していた眞栖人に愛犬を馬鹿にされて柚木はむっとする。 「大豆はそんなお行儀悪いことしないっ」 「俺の靴下、分捕ろうとしたぞ、あいつ」 「それ眞栖人くんの気のせいだと思う!」 (ううん、実は家族全員やられてます、大豆は常習犯です) 「ねぇ、見て、あの二人」 「間違いなく双子だよね」 「しかも絶世の男前双子」 「アルファのオーラ全開」 店内に流れるボサノバにまじって聞こえてくる会話。 誰もが比良と眞栖人の双子を褒め称えていた。 「とにかくありがとうっ、大切にするっ」 柚木は包装をあべこべに直してリュックにプレゼントを仕舞った。 ソファに浅く腰掛けて様子を見守っていた比良は、そっと目を伏せ、浅く頷いた。

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