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「俺は友達と合流する」
カフェを出た後、別行動を宣言した眞栖人に柚木の眉は八の字と化した。
「一緒にフリーマーケット行かないの!?」
「誰がそんなもん行くか」
「うーーー!」
「それ大豆の真似か?」
「っ……靴下とるぞ!」
「やっぱり分捕ってるんだろ。靴下窃盗常習犯か。とんだ悪ガキ犬だな」
「大豆のことばかにするなーーー!!」
愛犬およびワンコのこととなると本気で怒る柚木、しかし非力なオメガが本気でポカポカしたところで別格のアルファは痛くも痒くもなく。
「うひゃ!?」
突拍子もなくジップアップジャケットのポケットに片手を突っ込まれて柚木は飛び上がった。
想像以上のリアクションに眞栖人は吹き出す。
いきなりのポケットズボッにワナワナしている柚木に「いい加減、幼稚園児リアクションから卒業しろ」と言い残し、様になる大股で彼は去っていった。
(ほんとに行っちゃった)
ワンコならば耳がぺたんこしそうな。
教室で一番仲のいいクラスメートの背中をしょんぼり顔で見送っていた柚木は、肩に手を置かれ、慌てて頭上を仰いだ。
「行こう、柚木」
高校生らしからぬ大人びた比良の微笑に促されてコクンと頷いた。
水族館での衝撃的な出会いから約半年が経過した。
ファーストコンタクトでは呼吸の仕方を忘れるほど混乱した柚木だが、現在は発作じみた動悸を起こすこともなく、別格のアルファなる比良と接触できている。
(二人きりはまだまだ余裕で緊張する)
ていうかさ。
今でもまだ疑問なんだけど。
(おれと番だってこと、比良くんはよくすんなり受け入れられたよな?)
おれ自身は未だに信じられない、会う度に恐れ多くて、手を合わせてご尊顔を拝みたくなる。
(こんな奴と番なんて、神様マジかよ、ツラたん、草、なんて思わなかったんだろーか)
……比良くんがそんなこと思うわけないか。
……でも、それもそれで申し訳ないというか。
清々しく晴れ渡った空に街路樹の枝葉が伸びる表通り。
20センチ近く身長差があり、足の長さも当然違う柚木の歩調に合わせて比良は隣を歩く。
違う学校に通い、弓道部所属、常に成績トップを行く比良は番のオメガと会う機会がなかなか限られていた。
それでも時間を見つけては柚木に会いにきた。
夏休みも映画や食事に出かけた。
『眞栖人くんもおいでよ!』
大体、弟の眞栖人が一緒だった。
それに、同じ学校である柚木と眞栖人は二人で遊ぶことも多く……。
「また眞栖人は柚木の家にお邪魔したんだな」
多くの通行人の関心を奪っている比良に毎度のことながら感心していた柚木は、顔を上げた。
「俺はまだ一度も行ったことがない」
周囲の関心など、どこ吹く風、比良は隣を歩く柚木にばかり視線を傾けていた。
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