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市街地の一角にある広場で開かれたフリーマーケットはたくさんの来場者で賑わっていた。 (大豆におみやげ買いたいな) 付き添う比良への遠慮もついつい忘れ、犬用のオモチャやグッズを取り扱うブースを何度も行き来し、己のお小遣い事情を考慮し、熟考の末に一つだけと決め、リュックから財布を取り出す。 (ない!!!!) お札どころか硬貨も疎らな財布の中身に柚木は青ざめた。 (これじゃあ……比良くんにランチ奢られる気満々だったみたいでは……このばかたれオメガ……) 「柚木? もしかしてお金が足りないのか?」 真後ろにいる比良に首を左右にブンブン振ってみせ、熟考の末に選んだオモチャを凝視し、ポケットに何らかのお釣りを仕舞い込んでいないかと駄目元で両手を突っ込んでみた。 「ん?」 指先に触れた感触。 残念ながら金銭ではない。 柚木はジップアップジャケットの片方のポケットからソレを取り出し、しばしまじまじと眺め、そして目を見張らせた。 『いい加減、幼稚園児リアクションから卒業しろ』 それは眞栖人が柚木にこっそり送った誕生日プレゼント。 小さなラッコのガラス細工がぶら下がるキーホルダーだった。 (危ないなぁ、気づかないで壊したらどーするんだ) 円らな瞳をした飴色のラッコに柚木の口元は独りでに緩む。 たくさんの人々が行き交う広場内、ざわめきと人いきれに埋もれる中、眞栖人からの贈り物にただただ見惚れた。 「それは」 背後から比良に声をかけられて柚木は我に返る。 ほんの束の間、静止していた世界が動き出す。 フリーマーケットの活気が肌身にどっと押し寄せてくる。 飴色のラッコだけを捉えていた視界は溢れ返るノイズに色づいた。 「万引きしたんじゃないよ!?」 振り返った柚木はまず最初に己の潔白を述べておいた。 「もちろん、それはわかってる」 「眞栖人くんだよ、これ」 「……ああ」 「びっくりしたぁ。ぜんっぜん気づかなかった。手渡しでくれたらいーのに。変なの。でも水族館でラッコ好きだって話したの、覚えてたんだ。これ、キラキラしてる。大豆が間違って食べないようにしなきゃ。あ、ちゃんとヒゲもついてるよ。尻尾までかわいい。また会いにいきたいなぁ」 指から提げたキーホルダーに話しかけている柚木に比良は呟く。 「俺のときより嬉しそうだ」 呟きはざわめきにほぼ呑み込まれ、内容が聞き取れなかった柚木は飴色のラッコをどこで休ませようかと考えつつ、そばに寄り添うアルファを見上げた。 「比良くん、今、何て言ったの?」 「何でもないよ、柚木」 比良はそう答え、運命で結ばれている番のオメガに悠然と微笑んだ。

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