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「有原君、また今日も休み。初ラットが長引いてるみたい」
耳打ちされた内容はイスに座る柚木にも聞こえた。
ラット。
アルファに起こる発情期だ。
オメガに起こるヒートと同様、所構わず発情して授業どころではなくなり自宅安静を余儀なくされる、中には半月ほど学校を休むケースもあった。
(高二になって周りにちょこちょこ出始めた)
おれは……今のところ兆しゼロ。
生理、まだだし。
精神レベル、誰かさんいわく幼稚園児らしいから。
(ヒートなんて一生来ないかも)
オメガ性の男体には男女両方の生殖器が備わっている。
どちらも機能してはいるが、男性としての生殖能力は極めて低い。
女性の外性器・内性器もその身に擁し、こどもを身籠る上での生殖能力の方が上回る、いずれ初潮を迎えれば妊娠が可能になる体だった。
「眞栖人君のご両親、抑制剤の研究開発してるんでしょう? 早く完成して、アルファもオメガも不自由なく学校生活できるようになったら最高ね。そう思わない、歩詩クン?」
頭脳明晰、文武両道、スタイル抜群な才色兼備アルファの女子にいきなり振られて柚木は「そそそっ、そだね!」とあたふた回答する。
「でも、眞栖人君がラットになったときは元体育委員同士のよしみで、ね。慰めてあげてもいいわ」
その台詞には「ブフォ」した、ブフォの勢いで手にしていたラスイチの芯を折ってしまい、青ざめた。
「でね。冬休みにパパの店でパーティーがあるの。貴方も来ない?」
「十月にもう年末年始の話かよ」
「歩詩クンもおしゃれしてご一緒にいかが?」
「はぇぇ……おしゃれ……?」
一限目担当の教師が教室を訪れ、彼女は自分の席へ、包み隠さない眞栖人への好意的な態度に圧倒されていた柚木だが。
「放課後空いてるんならファミレスでケーキくらいご馳走してやる」
隣の教室へ戻る彼に去り際に言われて頬を紅潮させた。
肩越しに短く笑んで去っていった別格のアルファに胸底がじんわり熱くなった。
「まずはテストを返します」
返却されたテストの結果にまたしても青ざめた……。
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