260 / 333
3-3
「比良くん」
校門を抜ける前の段階で比良を見つけて柚木は驚愕した。
(なんでいるの? 今日、部活だったんじゃないの!?)
比良は校門の向かい側に設置されたガードレール脇に立っていた。
携帯を見るでもなく背筋をスッと伸ばしている。
均整のとれた体つきにグレーの詰襟が恐ろしいほど似合っていた。
重厚な艶を擁する学生鞄がこれまた研ぎ澄まされた雰囲気を高めている。
下校する生徒から次々と注がれる熱視線は一切気にせず、彼らの後ろに柚木を見つけると比良は手を振った。
「ひっ」
手を振る比良の余りの尊さに崩れ落ちそうになった柚木は咄嗟に眞栖人の後ろに隠れた。
「あー。なるほど」
「双子の眞栖人センパイを待ってたわけか、シュウくんセンパイ」
絶世男前と謳われている双子は地元および近隣の街ではすでに名が知れていた。
同じ顔だと驚かれることは減ってきた、ただやはり別格のアルファ双子が二人揃うと居合せた者達は気もそぞろになった。
「俺を盾にするな」
平均サイズのオメガを易々と隠せてしまえる長身の眞栖人は文句をぶつける。
「サプライズのお出迎えか。あいつもサムイことするもんだな」
「いやいやいやいや、痛み入っちゃうし、恐れ多いし、いやこれもう畏れ多いレベルだし」
「何言ってんだ、柚木」
背後でもぞもぞしている柚木に呆れた眞栖人は校門を抜け、双子の兄の前へ。
「柚木、誕生日おめでとう」
「っ……比良くん、今日、部活は? 月末に大会あるから練習で忙しくなるんじゃ……?」
眞栖人の背中越しに柚木はおっかなびっくり窺う。
弟の後ろから出てこようとしないオメガの問いかけに比良はにこやかに答えた。
「部活はさぼってきた」
「え!?」
「冗談だよ。ちゃんと事情を説明して休んできた」
(事情って、まさかおれの誕生日だからって……? まさかね……?)
「柚木を驚かせようと思って、連絡はしないで、ここで待ってたんだ」
「ひょぇぇ……」
「今回は柚木自身にプレゼントを選んでもらおうと思って」
「うひぃぃ……」
秋色に染まりつつある街路樹の傍ら、自分を挟んで会話する二人に痺れを切らした眞栖人は。
「ひゃあっ」
猫でも扱うような手つきで柚木の首根っこを掴むと比良に向かって差し出した。
「っ……いだだ! うなじっ、うなじ巻き込まれてる!」
「うるさい。俺越しに話すな、邪魔くさい」
日常茶飯事の他愛ない遣り取り、学校の同級生ならば見慣れている光景だった。
しかし比良は過剰に反応した。
柚木に触れていた眞栖人の手を振り払った。
ともだちにシェアしよう!