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3-4
「眞栖人。そこはオメガの聖域だ。迂闊に触っていい場所じゃない」
そう言いながら聖域と言い表したうなじに片手を添え、取り戻すように抱き寄せて、比良は同じ顔をした片割れを一瞥した。
いつになく厳しかった声色に柚木はどきっとする。
同時に、大きな掌に覆われたうなじがえもいわれぬ熱を帯びてゴクリと喉を鳴らした。
(熱い)
どろりと溶けそうになるかんじ。
水族館のときと似てる……。
「ご執心だな、兄さん」
ぎゃーすか喚いていたはずが、比良の懐で借りてきた猫みたいに大人しくなった柚木は横目で眞栖人を見た。
「高潔で誠実な柊一朗お兄サマが路上でいちゃつくなんて、さすが、運命の鎖で繋がれた番なだけある」
「あ、眞栖人くん……」
学校指定のスクールバッグが見当たらない、手ぶらの眞栖人は二人の元から去っていった。
落ち葉のちらつく歩道を突き進んでいく後ろ姿を、柚木は、唇をきゅっときつく結んで見送る。
二年に進級して三人で会う回数は激減していた。
番であるオメガとアルファに遠慮しているのか、柚木が誘っても眞栖人は断る一方だった。
週末に二人で遊ぶことすらなくなった。
夏休みはランチを二度したくらいで、花火大会や映画は比良と二人きり、家へ遊びにいったときも眞栖人は不在だった。
(今日、久し振りに放課後一緒に過ごせると思ったのに)
学校では隣の教室から会いにきてくれるが、放課後になれば別行動、最近は専らアルファ同士でつるんでいる眞栖人からの久方振りのお誘いに浮かれていた柚木は、やっぱり、しょんぼりしてしまう。
「見て見て、あの人、眞栖人クンと双子の」
「んっふ……路上ハグっ……相手誰!?」
「確かタメのベータのコでしょ」
「あれ? オメガじゃなかった?」
聞こえてきた会話に……しょんぼりからのド赤面、どぱっと汗が噴き出した。
「あ……あの、比良くん、そろそろ離れてもらってもいいでしょーか……?」
柚木が低姿勢でお願いすると比良はおもむろに身を離した。
乱れていた前髪を長い指で整えられて初心なオメガはキュッと息絶えそうになる。
「ごめん、柚木、眞栖人がすまない」
「えっ? ううん、別に……」
「俺も弟にムキになってしまった」
体の線に沿ったスマートな詰襟の制服姿だと優等生感が増す比良は、紅潮しきっている柚木にすまなさそうに笑んでみせた。
「大切な聖域を目の前で穢されたような気がして、つい」
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