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運命の番として出会った比良と柚木。
オメガにとって聖域である柚木のうなじにアルファの比良が深く深く口づければ、二人だけの絆が確立される。
唯一無二の繋がりで結ばれる。
「今日はありがとう……です」
セレクトショップでマフラーをプレゼントしてもらった柚木。
わざわざ自宅まで送ってくれた比良に放課後何度目かもわからないお礼を述べた。
「ウチ、寄ってく……?」
すでに家にはお招き済み、家族全員に番としてご挨拶済みの比良は首を左右に振る。
「今日はご家族が柚木をお祝いする大事な日だ。俺は遠慮しておく」
(そんな大袈裟な……近所で買ったバラ売りのケーキとステーキカレーとエビ天が待ってるくらいなんですけど)
「でも、そうだな、少し寄り道してもいいか?」
柚木の自宅から程近い児童公園へ寄り道した二人。
夜七時前、適度な広さの園内に人の姿はなく、常夜灯に照らし出された遊具達は冷たい宵闇に半身を浸からせていた。
「柚木」
ベンチに比良と並んで座っていた柚木は……改まった呼びかけにカチンコチンと化した。
緊張しているのが一目瞭然であるオメガに別格のアルファは愛しさを募らせる。
正面を向いて俯きがちでいた柚木の片頬に手を添え、その経過すら堪能するように緩やかに向きを変え、キスを。
(ご近所さんに見られたらどうしよ!?)
最初の三秒間は諸々の不安などでどうにかなりそうだった柚木だが。
五秒後には繋がり合った唇同士の温もりのことしか考えられなくなった。
アルファの鼓動が微熱伝いにオメガの肌身に浸透していく。
吐息の共有に全身が高鳴り、否応なしに昂揚し、身も心も傅 いていく……。
初めてキスしたのは去年のクリスマスだった。
十月の誕生日に引き続きプレゼントをもらい、心の底から辟易していた柚木はとどめの一撃さながらに比良からキスされて、本気で昇天するかと思った。
奥手で初心極まりないオメガに比良は急がず焦らず、未知なる領域への警戒心を少しずつ根気よく解していくつもりでいた。
そして、今日やっと、初めて。
「ん……!?」
舌を。
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