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「っ……んむ……っ……ぅぅ……」 柚木はぎゅっと眉根を寄せる。 緩々と抉じ開けられた唇。 口内を侵される感覚に背筋をゾクリと粟立たせた。 (とうとう、きた) 性事情にてんで疎い自分に対して比良が色々と控えていることを日々感じ取っていた柚木は、迷いや焦燥を呑み込んで、覚悟を決めた。 今まで我が身を気遣ってきてくれたアルファのために一先ず唇だけでも捧げようとした。 「んっ……んっ……んっ……」 風のない静寂に滲む悲痛な声。 耳を澄ませれば途切れがちに微かな水音も聞こえた。 蔑ろにされた息継ぎ。 尖らされたアルファの舌先がオメガの唇の内側を念入りに愛撫する。 優しく絡みついては微弱な刺激を送り込み、甲斐甲斐しく戯れ、互いの雫を交じらせて濡れた感触を愉しむ。 行き場に迷う柚木の両手が膝の上でピクピクと痙攣した。 余計に力んでいる瞼を薄目がちに見、比良は、密やかに笑みを零す。 震える上唇にそっと噛みついた。 「んっ!」 捧げるつもりが早々と限界を来たした柚木は薄情にも自らキスを解いた。 しかも、慌てて顔を離したかと思えば、しとどに濡れた自分の唇を一心不乱にゴシゴシ拭った。 (やばかった、危なかった!) 後一秒、キスが続いてたら……うん、天国に召されてた。 一時停止どころか永久停止してた、おれの心臓。 「……柚木」 柚木ははっとした。 唇がヒリヒリしてくるくらいゴシゴシしていた手を止め、隣に座る比良へ恐る恐る視線を向けた。 「そんなに嫌だったか……?」 覚束ない外灯の明かりがまるでスポットライトばりの効果を、精悍な顔に趣きある陰影を躍らせて、冴え冴えとした双眸の深みが増した比良がそこにいた。 「ひょぇ……ひょぇぇぇ……」 「先走って悪かった」 「っ……ううん、そんな……おれこそ、なんかごめん……その、嫌とかじゃなくて……その、大変、すごかったので……むりすぎたと言いますか……」 柚木はしどろもどろに弁解した。 ベンチから落ちそうになっていたショップの紙袋を慌てて手繰り寄せ、ラッピングされた巾着袋が覗くと情けなく笑った。 「おれ、今日で十七歳になるのに、いつまで経ってもこどもっぽくて、眞栖人くんからは幼稚園児レベルって言われるし、でも、その、頑張るから……うん、頑張る……」 (なに頑張るのかって聞かれたら答えられませんけど) 「あ、月、きれー……」 夜空にぶら下がる三日月に気がついて、ふにゃふにゃ笑っている柚木を比良は抱きしめた。 「そうだな、月が綺麗だ、柚木」 運命のアルファに惜しみなくハグされる。 へっぽこオメガの奥二重まなこは瞬く間に潤んだ。 (おれ、今からどんな顔して家族にお祝いされたらいーの)

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