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(ウェーイ系アルファの皆さんのことだから、枕投げとかトランプってわけじゃ……ない)
このクラスのアルファは一段と早熟で放埒な夜更しに慣れ親しんでいる者が多く、初心オメガの柚木はビビリ気味、だから足が向かなかったのだ。
(また、って言ってた)
前にもホテルで遊んだりしたんだ。
全然知らなかった。
(非ウェーイ系な眞栖人くんまで、いつの間に)
昨夜、公園で運命の相手である比良に過激なキスをされて参っていただけに柚木は愕然とした。
(またそんなことするの? オーケーするの?)
学校の不審者さながらにドアの隙間にへばりついて眞栖人の返答を確かめようとしたオメガだったが。
「覗き見オメガ発見」
不意打ちの耳打ちを食らって警戒心旺盛な野良猫ばりに飛び上がった。
「っ……あ……阿弥坂さん……」
同じクラスのアルファ女子、冬休みのパーティーに眞栖人を誘っていた阿弥坂がいつの間に背後に接近していて柚木は狼狽える。
赤くなった片耳に片手を押し当てているオメガ男子にアルファ女子はクスクス笑った。
「歩詩クンの好きな子でもいるの?」
さらりと長い黒髪、サイドのお姫様カットが特徴的な阿弥坂まことは悪戯っぽく尋ねる。
単独行動を好む彼女は群れるウェーイ系とは異なっていて、教師陣からも一目置かれる優等生、一部の生徒からは<アルファの女王サマ>と謳われる存在だった。
「このクラスということは、もしかして眞栖人君?」
阿弥坂は吐息の余韻が残る耳朶に焦燥している柚木を覗き込む。
上品で甘やかな香りに包み込まれてあたふたしているへっぽこクラスメートに艷やかな唇を歪めた。
「でも、確か貴方は眞栖人君の双子のお兄さんとお付き合いしてるよね?」
「おおお、お付き合い、させていただいておりますです」
「ひょっとして弟の眞栖人君とも?」
「へっ?」
「だって同じ顔だものね、ありえない話じゃない、むしろ大いにありうる」
壁ドンしそうな勢いで迫りくる阿弥坂に柚木はタジタジだ、ありえない質問への回答もままならずに完全に追い込まれている。
昼休みの真っ只中で人気のない廊下。
オメガ男子と同じく男女両方の生殖器が備わっており、オメガ男子とは逆パターンで女性としての生殖能力が極めて低い、男性性機能が優れているアルファ女子。
自信漲る「女王サマ」の迫力に柚木がこれでもかと圧されていたら。
「廊下で痴話喧嘩でもしてるのか、うるさい」
細く開かれていたドアがガラリと開かれて眞栖人が顔を出した。
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