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「眞栖人くんさ、他のアルファとホテルに遊びにいくの?」 とりあえず彼と顔を合わせ、普段通りの会話ができて少しだけ落ち着いた柚木は思い切って質問をぶつける。 「溶けかけてんな」 制服ズボンのポケットに入っていた貢物のチョコレート。 銀紙を解いた眞栖人は自分の口の中に放り込んだ。 「そーいう遊びって前からしてた? 集まるのって、アルファだけじゃないよね?」 「あま」 「ま、枕投げとかトランプで遊ぶんなら別に文句言わないけど、それってアレでしょ……」 「アレって何だ」 てっきりはぐらかされているのかと思いきや、唐突に聞き返されて柚木は口ごもる。 「お前も一緒に来るか」 信じ難いお誘いには限界いっぱい目を見開かせた。 ろくに噛まずに甘味を丸呑みにした眞栖人は誰もいない無人の廊下の奥を見、平然と続ける。 「運命の相手も見つかったことだし、そろそろこの辺で学んでおくのもいいんじゃないか、こづくりの作法」 シャープなラインを連ねる横顔を柚木は穴があくほどに見つめた。 「初っ端から番のアルファ相手と本番ブチかまして失敗して同情されるのも酷だろ。醜態見せたくないだろ? 一通りのレッスン受けて快感学習、自信がついてきた頃に柊一朗と思う存分愉しめばいい」 「……」 「ヒートを利用するのも一つの手だけどな。お前のことだからいつ来るやら」 毒を吐かれるのは毎度のことだが。 投げ遣りに億劫そうに吐き捨てられて、へっぽこオメガは唖然とした。 (なんじゃそれ) 「な……なんじゃ……それ……」 心の声が口からそのまま転がり出た。 引っ張るなと言われたセーターを両手で引っ掴み、ややキツイ角度ながらも20センチ近く身長差のある彼をぐっと見上げた。 「眞栖人くん、やっぱりなんか違う、変だよ、何かあった?」 「だから。セーターが伸びる」 「ッ……眞栖人くんがいつもと違うから!? セーター伸びるのは眞栖人くんのせいなんでない!?」 「俺に責任転嫁するな」 「なんであっち向いて言うの?」 「……」 「どこ見てるの? おれと話してるんじゃないの? まさかおばけでも見えてる?」 (そうか、わかった) 眞栖人の「どこが」違っているのか、柚木は気がついた。  教室のドアが開かれたとき、彼と視線は一切交わらず、こちらからひたすら見上げていたときはデコピンされて拒まれた。 「なんでおれと目が合うの避けてるの?」 なぜなぜ期ばりに直球で問い続ける柚木の顔が、ふと翳った。 屈んだ眞栖人の影が落ちてオメガの視界は彼に独占された。 「俺の前だと、とことん幼稚園児だな」 (あ) 同じ顔だけど。 同じじゃない。

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