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4-5
「柊一朗が相手だとそれなりにオメガらしく見える」
やっとまともに目が合って、しかしやたらと至近距離で、それでもせっかく繋がったのを解くのは惜しい気がして。
柚木は鋭く研がれた黒曜石を見返した。
「二人が運命の番なんだって……日に日に実感する」
クラスメートのアルファの脳裏には、昨日の放課後、双子の兄に抱かれて健気にしおらしくなっている柚木の姿が浮かんでいた。
結ばれるべき番の二人。
太刀打ちできない運命に守られた繋がり。
「俺の義理の兄になるかもしれないんだな、柚木」
生徒達が昼休みを謳歌する学校の片隅、乾いた呟きがポツンと落ちた。
唯一、鼓膜に掬い上げた柚木は言葉を呑む。
比良といる「今」にいっぱいいっぱいで目を向ける余裕のなかった未来。
確かに双子の兄と結ばれたらその弟は義弟になる。
(同級生で友達の眞栖人くんがおれの弟に?)
今度は不自然なほど自分を見つめてくる眞栖人の眼差しが、何故だかおやつを欲しがる愛犬の切なる眼差しと重なって見え、柚木は……笑ってしまった。
「よしよし、おにーちゃんだぞ」
屈んでいる眞栖人の頭を正に愛犬にするように両手で撫でた。
「……」
「おれに弟ができるなんて変なかんじ」
「お前な、柚木……」
整髪料が適度に馴染む黒髪を五指で梳かれ、苦々しい顔つきでいる眞栖人に柚木は満面の笑顔を捧げる。
「家族になったら、おれと眞栖人くん、ずっと一緒にいられるよ」
何の迷いもなく笑うオメガに別格のアルファは、一瞬だけ、葛藤も嘆きも忘れて釘付けになった。
「買い物行こうよ、ごはん食べたりドッグカフェ巡ったり、散歩にも連れてってあげる」
「……弟っていうより飼い犬扱いだ」
「毎日マッサージしてあげる!」
完全に愛犬の大豆扱い、柚木に頭をわしゃわしゃされて眞栖人もくすぐったそうに笑う。
軽くセットされていたのが乱れて、凛々しい上がり眉に前髪をおろした彼は仕返しといわんばかりに、へっぽこオメガの髪をぐしゃぐしゃにした。
「眞栖人クンとユズくんがじゃれてる」
「どっちかって言うとワンちゃんオメガが飼い主アルファにじゃれついてる……?」
人気のなかった廊下を同級生が行き来し始める。
午後の授業が徐々に近づいてフロア全体が騒がしくなる。
「そうだな、お前と一緒にいてやるよ、柚木」
上から目線の物言いに柚木は不服そうに頬を膨らませ、自分よりもボサボサ頭と化したへっぽこオメガに眞栖人は満足そうに唇を吊り上げてみせた。
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