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(こんな状況で見れるわけ……)
「っ……ん……ぷ……!」
問いかけておきながら比良は答えを待たずにオメガの口を再び塞いだ。
熱もつ吐息一つ逃がさず、心行くまで味わい、ヒクつく上下の唇を温めるように交互に食む。
制服の下に燻る仄かな体温を広げた五指でじっくり撹拌した。
「ぁ」
ダイレクトな愛撫に堪えきれず、唇同士の狭間で柚木は声を洩らす。
緩々と舌先を吸われると細腰が勝手に波打った。
(なんでこんな急に)
昨夜の公園で交わしたものよりも勢いの増したキス。
欲望に忠実なアルファの愛撫に柚木の心は怖気づいた。
自分の意志とは反対に昂揚し、隅から隅まで支配されたがっている体に混乱した。
(嫌だ)
おれなのに、おれじゃないみたい。
(このままだと完全におれじゃなくなる……?)
十七歳になったばかりの柚木はオメガの本能に流されるのを恐怖した。
なけなしの拒絶反応として……泣いた。
大粒の涙をぼろぼろ溢れさせた。
「っ……ぅぅ……まだ……早い……怖い……もうちょっと待って……やっぱり、おれ、まだむり……こんなの耐えられない……オトナ感が過ぎる……まだまだまだまだ未知の世界でいい……っ」
「それならいつまで待てばいい?」
いつの間に熱烈な抱擁から解放されていた柚木は。
自分の目線の高さに合わせて屈んでいる比良を涙目で見た。
「柚木に拒まれると苦しくなる」
普段は冴え冴えとしている瞳をやり場のない感情で濁らせ、眉間の縦皺に拒絶された悲しみを漂わせている彼に柚木の胸は軋んだ。
(比良くんにこんな顔させるなんて、おれって、だめだめへっぽこオメガの極み……)
「柚木、いつまでだ?」
「っ……高校卒業して……ううん、二十歳になるまで……」
「…………」
「そ、それまでには……頑張るから……うん」
「昨日も同じようなことを言っていた」
「…………」
ズボンにINしていたシャツは引っ張り出されていた。
毛玉が目立つベージュのセーターは捲れ、散々捕らわれた可哀想な唇は濡れそぼって、ヒクヒクしていて。
涙に満ち満ちた双眸はおっかなびっくり比良を窺っていた。
「俺を怖がらないでくれ、柚木」
(おれは罰当たりの最低オメガだ)
憂いに沈む黒曜石に胸底を抉られた柚木は自己嫌悪の海にドボンと落っこちるのだった。
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