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5-1-パーティーとお泊まり会

雪がちらつく冬の宵。 ダッフルコートを着込んでマフラーを巻いた柚木は、人通りの絶えない舗道の片隅に彼是十分近く佇んでいた。 斜向かいには街中の一等地に店を構えるイタリアンレストランが。 なかなか予約がとれない人気店だ。 本日は十周年パーティーでかなりの盛況ぶりだった。 ライトアップされた店頭、大きな格子窓が横一列にずらりと並んだ外観がぱっと目を引く。 店内は奥行きがあり、着飾った人々がソファ席で食事を愉しんでいたり、バーカウンターでグラス片手に談笑していたり、いわゆるラグジュアリーでドレッシーな空間がこれでもかと広がっていた。 (ほんとにいるんだろーか) こんなお店に一人で入る勇気ない。 諦めようかな。 でも……。 「……比良くんと二人きりでお泊まりなんて……」 柚木は覚悟を決めた。 意味もなく身を潜めていた自販機横からやっと動き出し、レストランのガラス張りの出入り口へと向かった……。 「冬休みになったら、柚木、家へ泊まりにこないか」 二学期の終業式前、柚木は比良にお泊まりのお誘いを受けた。 「父と母は年末年始は家にいないんだ」 「ええ? 大晦日もお正月も家族別々? それって学会とか?」 「いいや、二人でイギリス旅行に出かけている」 (二人で海外旅行とか、比良くんと眞栖人くんのお父さんお母さん、めちゃくちゃ仲いいな) 放課後、多くの中高生や大学生が客層を占めるファストフード店。 冬休み開始まで残り数日、目に見えて浮き足立つ同年代の男女、期末テストの結果が微妙だった柚木も遅寝遅起きができる長期休暇を楽しみにしていた。 「比良くんと眞栖人くんは一緒にイギリス行かないの?」 「ああ。数年前からこのパターンが定着してる」 「じゃあウチで二人で過ごしてるんだ? 年越しそばもおせちも二人で食べるの? あれ、お年玉は!? お雑煮は!?」 「お前は食欲と金欲の権化か」 隣に座る眞栖人のツッコミに柚木は頬を膨らませる。 「実を言うと年末年始も普段と変わらない生活を送ってる、かな」 向かい側でホットコーヒーを飲む比良の言葉に柚木は内心ショックを受けた。 (せっかくの冬休みの醍醐味が損なわれてる!!) 「食欲の方はイギリス土産で帳消しってところか」 期間限定バーガーも数種類のサイドメニューもトレイに揃えている眞栖人は順々に胃袋へ片づけていきながら言う。 「ちなみにお年玉は前もってもらってる」 「それただのお小遣いじゃん、お年玉は年明けにもらうからお年玉なんじゃん!?」 「知るか」 「もごご!!」 口の中にナゲットを突っ込まれて柚木は目を白黒させた。

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