275 / 333

5-3

普段は流している黒髪をポニーテールにし、アンクルパンツでジャストサイズな燕尾服を身に纏う、ピンヒールを易々と履きこなしたアルファの女王サマ。 クスクスしていた同じアルファの男女は揃って見惚れ、店頭を偶然通りかかった通行人も思わず足を止めて見入っていた。 「手が熱いのね。熱冷ましに冷えたシャンパンでも飲む? それともジェラートの方がいい?」 「お、お構いなく、です」 姿勢のいいスタッフが行き来する広々としたフロア。 テーブル席は確かにほぼ満席、壁際のソファ席も埋まっていた。 人々の笑い声や囁きと心地よく溶け合うウッドベースの効いたジャズ。 高い天井には星屑じみた光を宿すシャンデリアが複数吊り下げられている。 中二階にある半個室のボックス席は招待客専用であり、カーテンで閉ざされているところもあった。 「あのっ、阿弥坂さんっ、招待状もらってないし予約もしてないのに突然来てごめん!」 「今夜はビュッフェ形式なの。歩詩クン、好きなものは?」 「おれエビ天が好きっ!」 「残念ながら天ぷらはないわ、エビならサラダとアクアパッツァね」 行き交うスタッフと客を器用に避けて、阿弥坂は、クリーム色の壁に映えるダークブラウンの階段を上って中二階へ。 自分専用のボックス席に柚木を座らせると「私なりに見繕ってくるから<待て>していてくれる?」とクスリと笑って下へ降りていった。 あれだけ尻込みしていたはずが、あれよあれよという間に来店を果たした柚木、洒落た内装をキョロキョロ見回し、臙脂色のダブルソファに座り直した。 (眞栖人くんが来てるのか聞きそびれた) だけど阿弥坂さんってこんなにいい人だったんだ。 挙動不審者でしかなかったおれのこと助けてくれて、案内してくれて、料理まで持ってきてくれるなんて、わーい、いい匂いするし何でもおいしそう、どんなの持ってきてくれるんだろ!? 「……ち、違う違う、そうじゃない」 (比良くんが待ってる) 「眞栖人くんを見つけて早く一緒に帰らなきゃ」 「誰を見つけるの?」 阿弥坂は早々と戻ってきた。 料理が綺麗に盛りつけられた白いお皿と飲み物をテーブルに下ろすと、柚木の隣にゆったりと腰かけた。 「一番のオススメはゴルゴンゾーラのニョッキね」 「わぁ、おいしそっ」 「飲み物はブラッドオレンジにしたわ」 「わぁ、ありがとうっ」 おいしそうな料理に目的を忘れた柚木、ダッフルコートを着込んだままパクパク食べ始めた。 パンツスタイルが様になる長い足を組んだ阿弥坂は、テーブルに頬杖を突き、クラスメートが食事するのを微笑ましそうに見つめた。 「ところで眞栖人君のどういうところがいいの? 体?」 柚木は食事の途中で「ブフォ」した。

ともだちにシェアしよう!