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暖かそうなツイードのジャケットにベスト、ボトムスにはデニムパンツ、本革でブラウンのレースアップシューズが足元をキリッと引き締めている。 フォーマル寄りコーデでいつもより大人びて見える同級生に柚木は口をパクパクさせた。 「なんだ、餌付けしてほしいのかよ」 ニヤリと笑いかけられて、いつもと同じ笑い方にほっとして言い返そうとしたら。 「眞栖人君、ここは立入禁止なのに」 「あーあ。女王サマのテリトリーに入っちゃった」 「まことさんからお咎め食らうかも」 これまた容姿端麗な女子三人がカーテンの向こうから顔を覗かせ、このレストランで現在唯一のオメガは閉口する。 阿弥坂の知り合いの大学生であり、モデルだったり起業家だったりと学業のみならず多方面で活躍している、野心漲るアルファ女子だった。 「彼で最後。これ以上は定員オーバーよ」 年下の阿弥坂がそう言い切れば彼女達は残念そうに肩を竦めつつも、いざ営業開始、様々な業界の著名人も招かれているパーティーの巡回にいそいそと出向いていった。 (一瞬でわかる) 住んでる世界が違うって。 才能だらけのアルファが集まる華やかな場だって。 「眞栖人くん、今まであの人達といたの……?」 飲み物だけ持ってきていた眞栖人は「ちょっと話してただけだ、広告に使いたいとかSNSに一緒に出てほしいとか、きな臭いお世辞に飽き飽きしてた」と、タンブラーグラス片手に答えた。 (そっか、ちょっと話してただけ、飽き飽きしてた……かぁ) 柚木は胸を撫で下ろした。 強張っていた表情が明らかに和らいだへっぽこオメガをチラリと見、阿弥坂は首を左右に振る。 「お世辞じゃないと思うけれど」 「名刺もらったけどな、顔も名前も一致しない、柚木にやる」 「ええぇぇ……」 カードの手札みたいにテーブルに放たれた三枚の名刺。 「柊一朗と一緒じゃないのかよ」 ミントの浮かぶドリンクを飲み干した眞栖人に尋ねられて、柚木は、ツイードのジャケットをきゅっと握った。 「帰ろうよ、眞栖人くん」 「お泊まり会に参加しろって?」 ボックス席を照らす小さなシャンデリア。 明かりを反射して鋭く研がれた黒曜石は、じっと見上げてくる奥二重まなこを見返した。 「俺は邪魔だろ」 柚木は聞き間違いかと思った。 眞栖人が自己否定の言葉を口にするなんて信じられなかった。 「邪魔でしかない」

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