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(比良くんと二人きりになるのを避けたいのもある、だけど)
三人で過ごしたいって本気で思ってる。
それが一番だって。
初めてのお泊まり、三人一緒に楽しくできたらなって……。
「俺はまだしばらくここにいる。お前はさっさと戻れ。飢えた柊一朗が腹空かせて待ってる」
「へっ? まぁ、一緒にごはん食べるつもりだけど……」
おばか正直な返答に失笑したのは阿弥坂だった。
一人で戻れと言われてしょんぼりしている柚木をイイコイイコと撫でて慰めてやる。
すると眞栖人は片方の眉を吊り上げて彼女を見据えた。
「女王サマが垢抜けないベータを連れ込んでるって聞いて駆けつけてみれば、案の定だったな」
「あら。心外ね。迷えるオメガの子羊を導いてあげたつもりでいたのに」
「自分の皿に乗せてガブリする気満々だったろうが」
同じアルファ性からも一目おかれている眞栖人と阿弥坂はあくまで対等に接し合う。
自分を挟んで会話する二人に柚木は縮こまった。
自分をからかっているのだろう内容にひっそり自嘲した。
「一先ず帰れ、柚木」
(阿弥坂さんと真剣交際? アルファ同士で? でもお似合い……かな?)
不特定多数よりマシだ。
ウェーイ系と遊び回るよりは全然……。
……いやいや、ちょっと待て、おれ。
「……じゃあ、これ食べてから帰る」
(あーだこーだ言って眞栖人くんを縛る権利、おれにはない)
「じゃあ、後三十分くらいかかるか」
「そんなかからないっ!」
(でも、いきなり手の届かない遠くに行かないでほしい)
戻ってきたときから様子がおかしかった。
呼び出してみれば無言で開錠されたマンションのオートロック。
部屋のチャイムを押しても一向に反応がなく、取っ手を握ってみればロックの手応えもなし、そのまま開いたドア。
「えーと、比良くーん……?」
明かりが点された玄関ホールに柚木のか細い呼びかけが空しく響いた。
(なにこれ)
まさか泥棒に入られた?
部屋の奥に殺人鬼が潜んでたり?
人食いクリーチャーいる!?
「ひ……ひぃぃ……!」
映画やらマンガやらで想像力が極端に豊かなへっぽこオメガ、嫌な予感しかせずにブルリと震え上がった。
(まさか比良くん襲われたんじゃ)
一番嫌な予感に顔面蒼白になった。
慌ててスニーカーを脱ぐと「おじゃましますっ」と律儀に声をかけ、重たいリュックを放り投げて部屋の奥へ、丸腰でリビングに突進した。
幸いにも殺人鬼や人食いクリーチャーはいなかった。
薄明るいキッチン、暖房の効いた静かなリビングは無人であった。
「比良くん……?」
念のため窓を開けてバルコニーも恐る恐る覗いてみたが誰もいない。
「どこにいるの?」
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