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「お……おれ……淫乱だ……!!」
柚木は涙ながらに口走った
布団の向こうで比良がどんなリアクションをしているのか知る由もなく、エビみたいに丸まり、恥も忘れて泣いた。
「比良くんも眞栖人くんも……おれには大事なんだぁ……ぷひっ……双子だけど、そっくりだけど、全然違う……ぷひぷひっ……二人のこと……好きになっ……ぷひぃ……好きになりました……っ」
子豚みたいに鼻を鳴らしつつ柚木は告白した。
「……おれは番に相応しくないオメガです……」
だから、いっそのこと。
おれのことなんか忘れてほしい。
番じゃなくても比良くんなら本当の運命のひとを見つけられるーー……
「柚木は泣き方も可愛い」
鼻をプヒプヒさせていた柚木は、布団越しに比良に抱きしめられて、じわりと肌身を焦がした。
「相応しくないとか、そんな悲しいこと言わないでくれ」
別格のアルファの優しさを浴び、より一層プヒプヒしそうになるのを寸でのところで堪え、布団からもぞりと顔を出す。
「比良くん……ラット、おさまった……?」
ぼっさぼさになった髪、赤くなった鼻先、うるうるが止まらない奥二重まなこ。
心配そうに自分を窺う番の片割れに比良は微笑みかける。
「柚木の迷いは俺が取り除く」
思いも寄らない優しさに柚木の目は点になった。
「え……?」
次に、布団をいとも容易く引き剥がされて紳士的に恭しげに押し倒されると、開いた口が塞がらなくなった。
「えええっ? ちょっとちょっと!!??」
「俺の好きにしていい。柚木はそう言ってくれた」
「それはっ、比良くん、ラットで苦しそうだったから!!」
(今は真逆、快調そのものなのでは!?)
「不安にならなくていい」
「はひっ!?」
「俺と柚木は番だ。愛し合うのが必然なんだ」
「いやいやっ、でもっ、ラットじゃなくなったんなら、おれっ、まだ先でいい……です!!!!」
凛々しく整った顔に甘やかな色香が上乗せされた比良は、真下でブルブルしている柚木に極上の微笑を深めた。
「待てない」
(いやーーーーーー!!!!)
「やっ……やだ、むりむり、怖い怖い怖いっ!!」
「さっきまでは嫌がらずに受け入れてくれた」
「だからっ、それはっ、ラットだからっ……まだっ……おれっ……全然むり……!」
幼児がえり全開で愚図る柚木は比良の真下で再びエビみたいに横向きに丸まる。
「……こんな、どっちつかずな気持ちで……できない……比良くんと眞栖人くん……二人のこと好きな状態で……できない……」
シーツを手繰り寄せて頑なに拒むオメガに、別格のアルファは、不機嫌そうにするでもなくただただ見惚れた。
欲望は増すばかりだ。
今夜、中断するつもりはさらさらなかった。
さめざめと泣く姿に底なき愛情を滾々と湧き上がらせ、比良は、愛しのオメガに触れようとした。
「随分と爛れたお泊まり会なんだな」
柚木は息を呑んだ。
堰を切ったように顔を上げ、涙でいっぱいのぼやけた視界に彼を映し込んだ。
「枕投げとかトランプするんじゃなかったのかよ?」
開かれたままになっていたドア。
部屋の出入り口に眞栖人が立っていた。
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