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部屋の中へ入ってきた眞栖人は柚木の携帯をデスクに置いた。 ベッドから一定の距離を保ち、布団にすっぽり包まる同級生に聞き返す。 「柊一朗がラットになったのか」 「うん……電話でも言いましたけど……」 「店の中だったし、早口で滑舌悪くて聞き取れなかったんだよ」 「……てんぱって、ぱにくってたんです……」 「後は呼びかけても反応ゼロだしよ。まぁ。ラットなら仕方ないな」 双子に言い争いしてほしくない柚木は頻りに頷いてみせた。 内心、仕方ないと言い切られて悲しくなったのも事実だった。 (いやいや、これでいーんだ、二人がケンカしないで済むのなら……) 「でも妙な話だな」 容赦なく研がれた黒曜石の殺気は静まるどころか怖気をふるうくらいに強まった。 「なぁ、柚木。俺達は治験を受けてるんだ」 「ち……ちけん?」 「国に承認してもらうために臨床試験中の抑制剤。両親が研究開発に携わってる<サルベーション>を定期的に接種してる」 「さ……さる……さるべ……」 ダブルベッドの上、柚木に無言で寄り添っている比良に眞栖人は語気を強めて言い放つ。 「サルベーションを打ってる身でラットになった。紛れもない失敗事例に数えられるな。父さんと母さんからしてみれば深刻な問題だ」 比良は激昂している弟に淡々と視線を注いでいた。 そして、急に出てきた治験の話に理解が追い着かないでいる柚木を見下ろした。 「ごめん、柚木」 しっかり包まった布団の内側で不思議そうにしているへっぽこオメガに別格のアルファは懺悔を。 「柚木に嘘をついた」 「へ……」 「父と母が製薬会社と共同研究でつくり上げた抑制剤は完璧だ。いずれ承認を得て皆が接種できるようになる。アルファとオメガ、今よりも自由で選択肢の広がる世界がやってくる」 「そ、そーなんだ……すごい……よかったぁ……」 「はぐらかすな、柊一朗」 ベッドの外から剣呑な一声が飛んできても眉一つ動かさず、未だにイマイチ事態を把握できていない奥二重まなこに比良は告げる。 「俺はラットになっていない」

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