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運命に約束されていない、番ではない、ただのアルファとオメガの関係だったら。 彼はきっと他のひとを選ぶ。 へっぽこオメガは今の今まで頑なにそう思い込んでいた。 (番じゃなくても、おれのこと) 嬉しい……。 だけど……。 今は素直に喜べない……。 (うそついて抱こうとしたって、いくら何でも、さすがに!!) 嬉しいやら畏れ多いやら呆れ返るやら、どうしたものかとモジモジしていた柚木はデスクの方へ視線を向けた。 眞栖人に助けを求めているような仕草を見、比良は間髪をいれずに尋ねる。 「俺より弟の方がいいのか?」 柚木はぎょっとした。 そばにいる比良にすぐさま視線を移し変えると咄嗟に断言した。 「そんなわけない!!」 (眞栖人くんには阿弥坂さんがいる) おれの気持ち、知られたくない。 拒まれるの前提だから本人に伝える必要ない。 わざわざ自分から進んで惨めになることない……。 「これで本当のめでたしめでたし、か」 眞栖人は開口と共にベッドから顔を背けた。 「俺はパーティーに戻る」 「眞栖人くん」 「痴話喧嘩に巻き込まれた気分だ。いや、実際そうだよな。むしろ夫婦喧嘩か」 大袈裟に肩を竦めてみせた後、彼は笑った。 踵を返して未練なく部屋を出ていった。 見えなくなった背中に柚木は言葉をかける。 「き……気をつけて……」 (行っちゃやだ) 「眞栖人くん薄着だし、寒いから、風邪引かないで……」 (行かないで、一緒にいて) 「……おれに眞栖人くんを止める権利ないし」 (他のひとに奪われたくない) 「おおお、おれ、淫乱で尻軽の……だめだめオメガだ……」 (惨めになってもいい) 柚木は裸身に羽毛布団を纏ったままベッドから飛び出した。 寒さも忘れて冷え込む廊下をドタバタと駆け抜け、必死こいて、死に物狂いで、玄関ホールで佇んでいた眞栖人の背中に飛びついた。 「柚木」 何も言えずに無我夢中で抱きつく。 ツイードのジャケットに額を押しつけた。 「どうしたんだ、お前……」 (パーティーに行ってほしくない、そばにいて、いなくならないで、好きなんだ、眞栖人くん、好き) 胸の内側で想いは溢れるだけ溢れて、うまく言葉にできず。 柚木はもぞりと顔を上げた。 肩越しにこちらを見下ろす眞栖人と目が合う。 自分のすべてを見てほしくなる黒曜石に心が震えた。

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