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「おれは眞栖人くんが好きです」 「ふぅん」 「比良くんのことも。二人が好き。誰かに石投げられても、卵ぶつけられても、火炙りにされても」 (どっちつかずじゃない、二人のことが同じくらい好きなんだ) 「魔女裁判じゃあるまいし」 ありのままの想いを委ねられた眞栖人は平然と軽口を叩く。 日頃から茶化されるのに慣れている柚木が見上げたままでいると、涼しげに長い睫毛を伏せ、呟いた。 「誰がそんなことさせるかよ」 一瞬だって想像したくない光景に荒立ちそうになる声を抑え、あくまでも軽々しい口調で続けた。 「お前に石や卵をぶつけようとする奴がいたら、ぶつける前にその手首をブチ折る。火が放たれたら炎になる前に冷静に消火する。そして火を放った奴を冷静にブチのめして叩き潰す」 柚木は瞬きも惜しんで眞栖人に釘づけになった。 オメガの(やわ)く滑らかな手に捕まったアルファは、そっと、感嘆した。 「何回、思っただろうな」 しっかりした骨組みの大きな手でその手を覆い尽くす。 「お前と柊一朗が番なんてクソみたいだって」 冷たい運命を呪った夜があった。 報われない故に離れたくなることがあった。 「俺と番だったらよかったのにって」 眞栖人は両手で柚木の片手を握った。 冬の夜気に凍えてしまわないよう、しっかりと。 「でも今は違う」 『家族になったら、おれと眞栖人くん、ずっと一緒にいられるよ』 「番じゃなくてもいい。柚木のそばにずっといられるのなら、それでいい」 眞栖人は裸身に布団を引っ掛けただけのベスト・オブ・薄着である柚木を抱きしめた。 「俺にとってお前が一番なんだ」 頼もしい腕の中で柚木は心地よさそうに目を瞑る。 眞栖人もまた目を閉じた。 外気に覗くぼっさぼさな髪に鼻先を沈め、胸の奥底で塞き止めていた想いの丈を溢れさせた。 「大好きだ、柚木」

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