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7-1-双子くんと柚木-最終章
「違ぅぅ……そーいう意味で言ったんじゃなぃぃ……」
柚木は比良の部屋に連れ戻されていた。
お姫様抱っこして運んでいったのは眞栖人であったが。
「俺には見せてくれないのかよ」
閉められた部屋のドア。
ベッドサイドテーブルに置かれた卓上ライトの明かりにぼんやり浮かび上がる暖かい室内。
「柊一朗にだけ見せて、俺は駄目。そんなのフェアじゃない」
ベッドの上で布団に包まって座り込む柚木は真正面に迫る眞栖人を伏し目がちに見やった。
「み、見えたでしょーが」
「ん?」
「布団の間から見えたはず、結構見えたはず、絶対見たはず」
眞栖人はジャケットを脱ぎ捨てていた。
第一ボタンが外されたシャツを腕捲りし、ツイードのベストを着用したままの彼は、視線が泳ぎがちな奥二重まなこに強請る。
「お前のこと、ちゃんと見たいんだよ」
強請られた柚木はゴクリと喉を鳴らした。
ふざけるでもなく真摯におねだりしてきた同級生に肌身を焦がした。
「おれは特に眞栖人くんの裸見たくないのに……なんでそんな急ぐんだろ……待てないんだろ……」
照れ隠しにブツブツ言いながら、胸の辺りで重ね合わせていた布団をのろのろ開いていく。
華奢な肩から滑り落ちた白い寝具。
体育座りして立てた膝をくっつけ合わせ、斜め下に視線を縫いつけて、覚束ない薄明かりに素肌をほぼ曝した。
「はい、見せた……」
日焼けに疎い骨張った肢体。
顔立ちを含め、どのパーツにも柚木は自信がない。
自撮りだって一度もしたことがなかった。
「た……体育のときだって見たことあるくせに、一年のとき、同じ教室で着替えてるの見たはず」
恥ずかしがっているのが一目瞭然である柚木に眞栖人はさらに身を寄せる。
「そうだな。お前、オメガのオスは更衣室で着替えるよう言われてたのに教室で着替えてた」
「だって、更衣室行くの、めんどくさい……おれなんかほぼほぼベータ質で、他のオメガみたいに中性的でもミステリアスでもないし」
「中性的、ミステリアス、まぁ確かにそういった要素は著しく欠落してるか」
「ほ、ほらやっぱり、色気だってないし、そ、そ、そそられないし」
「今、俺は猛烈にそそられてるけどな」
柚木は口を噤む。
いつの間にすぐそばまで接近していた黒曜石の瞳に視線を束縛された。
「俺に見せて。お前の全部」
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