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1-1-眞栖人くんと柚木/パラレル番外編

■ケモミミ/擬獣化/健全ほのぼのモフモフ話です <化ケ物>と<ヒト>が暮らす世界。 <化ケ物>は<ヒト>と比べて一般的に個々の能力が高く、なおかつ容姿にも優れ、妖気と魅力溢れる格上の存在であった。 とにかく常に<ヒト>の羨望の的となる。 が、しかし、マーベラスでゴージャスな<化ケ物>においても平凡なものはいるわけで。 「ユズくん、なんで<ばけうさ>なのに足遅いわけよ」 「途中で転んだし」 「ジャンプしても、なかなかパンに届かなかったし、<ばけうさ>なのに」 「今日はいつも以上にへっぽこ感満載というか」 秋晴れの十月下旬、とある<化ケ物>と<ヒト>が通う学園では体育祭が催されていた。 パン食い競争が終わったばかりの校庭の片隅で、クラスメートの<ヒト>に囲まれた<化ケ物>は膨れっ面と化す。 「化ケ兎一族だろーと、苦手なものは苦手なんです! 足も遅いし? 何もないところでもスッ転ぶし! やや平均サイズ以下でジャンプどれだけ頑張ってもパンに届かない!!」 失笑しているクラスメートにキレちらかしているのは柚木歩詩、<ばけうさ>こと化ケ兎の血を引く、れっきとした<化ケ物>だ。 その割に平々凡々な容姿、体型どころか成績もやや平均以下、しょっちゅう<ヒト>に間違われる。 時々、びっくりしたときに教室で変化(へんげ)が解けて、人間の姿から本来の姿に戻った際に「そーいえばそーだった」と思い出される始末だった。 (どーせ、おれなんか、へっぽこばけうさですよ) どんなに頑張っても、やや平均以下レベル。 たまーに成績では、やや平均以上レベルになることもあるけど。 (身長体重見た目は、もう、諦めてます) ていうか。 今日、いつも以上にへっぽこなのは、誰にも言えない理由があるんです……。 「クラス対抗リレー、始まった」 「学年入り乱れて各クラストップの<化ケ物>が勢揃いだもんな、正に体育祭フィナーレってかんじ」 「アンカーなんか国体レベルでしょ」 応援する生徒が集うテント、きゃっきゃしている友達の隙間から柚木は校庭中央に目をやる。 全校生徒の注目を浴びながら、風を切ってトラックを駆ける、クラスを代表する運動神経抜群な<化ケ物>達。 化ケ鴉、化ケ狐、化ケ蛇、運動能力のみならず容姿端麗な彼等が全力で競う姿は見応え十分だった。 最終走者になれば迫力も一入(ひとしお)だ。 中でもダントツ目立っていたのは。 「眞栖人クン、逆転した」 「さすが学園最強の帰宅部」 先を走っていた二人を見る間に追い抜いて一番にゴールしたのは化ケ犬の比良眞栖人だった。 スラリとした長身、短めの黒髪、凛々しく整った顔立ちは高校二年生にして精悍に仕上がっている。 皆、同じ運動着であるはずの黒ジャージをスタイリッシュに着こなし、運動部員顔負けの美しいフォームで走る姿は多くの生徒および保護者の目を釘付けにした。 柚木もその一人だった。 同じ学年で違うクラスの<へっぽこばけうさ>は、友人越しに、たくさんの同級生に囲まれている眞栖人をこっそり窺う。 『柚木のことが好きだ』 (今でも夢としか思えない) 昨日の放課後、落ち葉の舞う裏庭で。 柚木は彼に告白された。 一年は同じクラスであったが、<化ケ物>の中でも優秀な眞栖人と交流した記憶はゼロに等しく、これまでろくに接触したことのなかった別格化ケ犬からの突然の告白に柚木は混乱した。 『ひょぇぇぇ……』

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