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『俺と付き合ってくれるか』
『いやいや、ちょっと待って、なんでおれ? もしかして罰ゲームで無理矢理言わされてる? あ! それとも何か賭けてるとか!? おれのこと釣り上げることができたら、ビーフジャーキー奢ってもらう……とか……』
ありえない、信じられない、ひょっとしてからかわれているのでは。
とてもじゃないが信じられず、思いつく告白の理由をべらべら述べていた柚木は、みるみる険しくなっていった眞栖人の顔に閉口した。
『俺の気持ちを馬鹿にしてるのか、お前』
(怖い!!!!)
……いやいや、違う、今のはおれが悪い……かな。
『ご……ごめん……だって、まさか眞栖人くんから告白されるとか……ありえないので』
『どうして、そう思うんだ』
(だって! 今まで交流なかったじゃん!! まともに話したの、これが初めてじゃん!?)
『えーと、その……経緯が全く不明というか……そんな様子、ぜんっぜん、だったので』
『柚木、保健委員だっただろ。今もそうだよな』
『あ、うん……?』
『普段は教室の隅っこでおどおどして、音読でも必ず緊張する、体育では平均台からすぐ落ちる、掃除時間ではゴミ当番を押しつけられる、些細なことで腰抜かして変化が解ける』
(……告白直後にディスられてる……?)
『でも。保健委員として動くときのお前は違った』
『え、そーだっけ?』
『自覚ないのか』
『うん』
『柚木は誰よりも先に動いて、迷いがなかった。具合が悪くなったり、ケガをした相手にすぐに寄り添っていた。<化ケ物>だろうと<ヒト>だろうと区別しないで、自分にできることを一生懸命やっていた』
『……』
やたら長く見える足にはグレンチェック柄のズボン、パーカーにブレザーを羽織った眞栖人に真っ直ぐに見つめられて、そんなことを言われて、柚木は素直に頬を紅潮させた。
『お前から、いつの間にか目が離せなくなった』
今更ながら、どきどき、してきた。
下校しようとして、いきなり眞栖人に声をかけられた際には危うく変化が解けそうになった。
裏庭へ連れていかれても、何の用なのかまるでわからずに、ずっと挙動不審でいた。
秋めく夕方、校舎の陰で眞栖人に想いを打ち明けられて、柚木の胸は正直に弾み始めた。
『もっと近づきたいと思ったんだ』
「お疲れさま、眞栖人クン!」
柚木はハッとした。
学園一の美少女と謳われる、同じ化ケ兎のクラスメート女子にタオルを渡されている眞栖人を見、胸が捩れた。
「かわいいなー、俺も笑顔でタオル渡されたい」
「しかめっ面で投げつけられてもいい」
「同じ<ばけうさ>でも、こーも違うもんかな」
普段の柚木ならば「うるさいうるさいっ」と言い返していただろう。
しかし昨日の今日では何も言えずに黙り込んだ。
『……ごめんなさい……』
柚木は眞栖人をフッた。
その場で、お断り、していた。
(むりすぎる)
だって、おれだよ?
相応しくないの、誰の目にも明らかだよ?
こんなド平凡なおれが眞栖人くんの隣にいていいわけ、ない。
畏れ多いし、自信ないし、想像もつかなくて、なんか怖い……。
『理由、聞いてもいいか』
柚木は答えられなかった。
無言でいたら『そうか』とだけ呟いて、彼は裏庭から去って行った……。
(一位おめでとう、眞栖人くん)
忖度しない、分け隔てない、自分の道を突き進む眞栖人くんこそ<化ケ物>と<ヒト>関係なく、みんなから好かれてる。
そんな眞栖人くんには、同じくらいキラキラした相手が似合ってる、きっと……。
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