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「そうだな、じゃあ友達からならどうだ」 「友達……? おれと眞栖人くんが……?」 「俺とお前、交流不足なら今日から一先ず友達として関係を深めていったらいい」 眞栖人は柚木と共にベンチから立ち上がった。 屋上庭園の片隅で<へっぽこばけうさ>と向かい合う。 「うん、それなら……ぜんぜん、いいよ……?」 兎耳の隅々までポカポカさせて柚木は頷いた。 182センチある化ケ犬を精一杯見上げていた、164センチの化ケ兎だが。 (え) 眞栖人のフサフサした尻尾がブンブン揺れ出して思わず凝視した。 本人は至って平然としているが、とにかくブンッ、ブンッ、なかなかな勢いで風を切って横揺れしているではないか。 (えッ……かわいッ……かわいい……!) 化ケ兎でありながら柚木家では黒柴のワンコを飼っていた。 犬好きではあったが、眞栖人はワンコとは言い難く、どちらかと言えば猛犬寄りで「かわいい」なんて思ったことは今の今まで一度もなかった。 (ていうか、眞栖人くんの犬耳とか初めて見たけど、めちゃくちゃモフモフ!) ピンと勇ましく立ち上がった黒毛の犬耳に柚木は顔を輝かせた。 我知らず自分も兎耳をピンと立てた<へっぽこばけうさ>は、魅惑のモフ耳に興味津々、さらには左右に体を動かし、色んな角度からつぶさに観察しようとした。 「触ってみるか」 「え!」 眞栖人が前屈みになり、目の前にやってきたモフ耳。 柚木はお言葉に甘えた。 モフモフ、フカフカな立ち耳にそっと触れてみた。 「モフッ……モフッ……!」 つい言葉にしてしまうくらいの触り心地。 夢のようだった。 愛犬の大豆ともまた違う、大きくて厚みがある、男前な犬耳の感触に酔い痴れた。 「ふわぁ……なにこれ……いいなぁ~……ふぉぉ……」 眞栖人への遠慮や気後れも忘れて夢中になった。 やけに大人しく触らせてくれるのをいいことに、心行くまでモフ心地を味わった。 「はぁ……満足……ありがとう、眞栖人くん……」 五分近く堪能した柚木がお礼を言えば、眞栖人はすっと姿勢を正し、頭をブルブル振った。 「ご、ごめん、ちょっと触り過ぎた」 「別に。減るもんじゃないし、構わない」 お触りはご法度、迂闊にモフろうものなら牙か爪で撃退してきそうな眞栖人の意外な心遣いに柚木は感動しかけたのだが。 「次は俺の番だな」 柚木はきょとんした。 きょとんしている隙に……灰色の兎耳を撫でられた。 「俺だけ触られるのはフェアじゃないだろ」 犬耳を触られ続けて尻尾をぼふっと膨らませた眞栖人は、優しい手つきで、フワフワした兎耳の感触を確かめた。 「く……くすぐったい……」 「俺だってくすぐったいのを我慢した」 「ぅぅ……」 「俺のよりも繊細なかんじだな。あったかくてフワフワしてる」 「ぷぅ……ぷぅ……」 「日向のいい匂いがする」 「ぷっ……ぷぅぅ……っ」 またクンクンされて、両手で両耳をゆっくり優しく撫でられて、柚木は縮こまった。 「ぶぅぅぅ~~……っ」 無性にくすぐったくて、ムズムズして、涙まで湧き上がってくる。 自分のセーターをぎゅっと掴んで小さく震え出したかと思えば、その場で地団駄を踏むように、足ダンした。 「柚木」 柚木と同じく、フワフワな触り心地につい夢中になっていた眞栖人は、はたと中断した。 縮こまってプルプルしている<へっぽこばけうさ>に黒曜石の鋭い瞳を頻りに瞬きさせた。 「も……もう、むり……くすぐったくて変になる……体ぜんぶ、熱いッ……」 涙目の柚木にやめるよう懇願されて。 眞栖人は可憐な兎耳から手を離した。 ああ、やっと終わった、柚木がほっとしたのも束の間のことだった。 眞栖人に思いっっっきり抱きしめられた。 その懐にぎゅうぎゅう閉じ込められた。 阿弥坂とはまるで違う、力強い胸板に片頬がぶつかって、逞しい両腕に半身を容赦なく締めつけられる。 兎耳にダイレクトに注ぎ込まれた熱もつため息に柚木の目はさらに濡れた。 「と、友達、おれと眞栖人くんは友達……友達で、こんなこと、しなぃぃ……っ」 「……」 「ぶぅぅっ……くるし……」 息苦しいほどの熱烈ハグ。 心臓と心臓がぶつかり合っているようだ。 友達関係を早々と切り上げて恋人の真似事に及んできた眞栖人に、もう何も言えずに、柚木は身を委ねた。 彼の温もりにすっぽりと包み込まれて、その極上の居心地に溶けそうになった。 しんなりした髪に鼻先を沈めていた眞栖人は、腕の輪を緩め、頬を上気させている柚木を覗き込んだ。 「好きだ、柚木」 (眞栖人くん、これ、一日に何回言うつもりーー……)

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