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番の口づけ。
絶対的な繋がりにあるアルファにへっぽこオメガは身を捧げる他ない。
眞栖人に見られてこっぱずかしいものの、本能に支配され、過保護な唇を受け入れた。
(……体がポカポカする……)
しなやかな腕に抱かれ、温かな懐で甘やかされて、柚木は次第にとろんとなっていく。
尊い温もりを比良と共有して、安心する巣の中にでもいるような心地で、甲斐甲斐しい抱擁に身を預けていたら……。
「わぁっ……?」
柚木はぞくっとした。
無防備だったうなじを不意に甘噛みされて、ピリピリと電流じみた刺激が背筋を駆け抜けた。
うなじに軽く歯を立てたのは眞栖人だった。
双子の兄とキス真っ最中だった柚木の真後ろをキープし、ちょっかいをかけてきたのだ。
「眞栖人」
当然、柚木の番である比良が見過ごすはずがなかった。
「何してる。そこは柚木の聖域で、いずれ俺と誓う場所だ」
「ちょっと味見しただけだ。これくらい、どうってことないだろ」
「どうってことない、なんてことは全くない。早く出ていってくれ」
「さっきの言葉と矛盾してるな、兄さん」
比良は柚木のうなじを片手でカバーし、あからさまに遮られた眞栖人は面白くなさそうに眉根を寄せた。
「本気で噛みつくぞ」
「柚木のうなじを守れるのなら構わない」
「ちょっ……おれなんかのうなじで物騒な双子ケンカすんなぁ……」
「何ならはんぶんこするか」
「うなじ、はんぶんこ……? それ、どーいう状況……? 怖ぃぃ……」
「お前には一口だって分けない。いいや、誰一人にも。柚木のうなじに噛みついていいのは俺だけだ」
「……なんか痛そう、怖ぃぃ……」
色んな発言に怯えた柚木の頭をよしよしと撫でたのは眞栖人だった。
「じゃあ俺は柚木の愛人にでもなるか」
柚木はブフォする。
「夫に満足できない人妻なお前のこと、いつだって慰めてやるよ」
「そっ、そんなっ……えっちな人妻になるわけ……っ」
「当然だ。そもそも不満になんか一ミリたりともさせない。いつだって全力で柚木のことは満足させる……この可愛い尻尾ごと」
「ちょっ、そこお尻っ、尻尾じゃなぃぃ!」
徐々に過激になり始めた別格のアルファ双子に着ぐるみへっぽこオメガは為す術もなく……。
「下に何も着ていなかったのか、柚木」
「だって、今日、暑かったから……うひぃっ、履いてるっ、ぱんつは履いてます……!」
「着ぐるみの下がパンツだけっていうのもエロいな」
「エロくなぃぃ……眞栖人くんの方が何倍もエロエロのくせにぃぃ……」
前後から容赦なく愛撫され、乱された着ぐるみ姿の柚木は、比良と眞栖人の間で二人に哀願した。
「さ、さすがにリビングでは、ちょっと……それから、この着ぐるみ、おねーちゃんが買ってくれたやつだから……汚したくなくて……」
へっぽこオメガは一生懸命二人にお願いした。
その結果。
「ふぅぅ……リビング、やだって言ったのにぃ……それにおれだけ素っ裸なんて……嫌だぁぁ……はずかしぃぃ……」
「あんまりにも柚木が健気で可愛くて、抑えきれなかった」
「俺の服はいくらだって汚していいぞ、柚木」
「ぅぅぅ~……」
「で、どうしてまた着ぐるみ着なくちゃいけないの? 普通の服に着替えたいんですが!」
夕暮れ刻、やっと二人から解放されたかと思えば、また着ぐるみを着せられて柚木は帰るに帰れない状況にあった。
「ふ……駄目だ、どうしても柚木がソレ着てると、バンザイしてるレッサーパンダが後ろに見える」
ソファに座っていた柚木は、顔を洗ってきた眞栖人をジロリと見、立ち上がってバンザイしてみせた。
「ふ……ッ」
「レッサーパンダって夜行性で凶暴なんだっけ? そんで爪も鋭いんだよね? バリバリ!」
飽きずに笑う眞栖人の背中に飛びつき、膨れっ面でバリバリ引っ掛いた。
「俺の背中で爪とぎしてるのか」
「眞栖人くんの背中、ズタズタにしてやる!」
「レッサーパンダにしては怖いこと言うのな」
本気でバリバリしている柚木をいとも簡単に背中から引き剥がし、眞栖人は、着ぐるみへっぽこオメガをぎゅっとハグした。
「よしよし」
嫌だと言ったのにリビングのソファで続行され、まーた着ぐるみ着用を無理強いされて些か気分を害していた柚木は、甘いハグにころっと絆される。
「腹が空いて気が立ってたか」
「天敵に意地悪されてイライラする気持ち、天敵がいない肉食動物にはわからないだろーな」
「俺は柚木の天敵なのかよ? じゃあお前のこと丸かじりしてもいいわけだ」
「痛いのやだ」
フードを被ったままの頭をわしわしされて柚木はくすぐったそうに声を立てて笑う。
「柚木。俺にもバンザイしてほしい」
背後から比良に抱きすくめられると、いつまで経っても慣れずにどきっとし、あわあわした。
「どっちかと言うと柊一朗の方が天敵だろ」
「俺と柚木は番だ。お前は番の仲を引き裂く外敵だ、眞栖人」
お揃いの黒曜石の瞳が頭上でバチバチと火花を鳴らし合い、柚木は「ひょぇぇ……」と獲物さながらな悲鳴を零す。
(おれが飼育員さんになってケンカばっかりしてる二人をちゃんと仲裁しないと……!)
「ケンカは駄目っ、二人とも、めっ……!」
「めっ!」された二人は揃って柚木を覗き込む。
「誘ってるのか、柚木?」
「そうとしか思えないぞ」
(なんでそうなるかな~~~!!??)
結局、まだまだ腹ペコな別格アルファ双子のお皿の上に乗せられてしまう、二人にとって格別おいしいへっぽこオメガなのだった。
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