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1-1-比良くんと柚木/バレンタインデー番外編

比良にもらったからだろうか、そのチョコレートはやたらと甘く、身も心も昂揚するような味だった。 「ふ……ぁ」 放課後だった。 隅々まで整理整頓された比良の部屋に柚木の小さな吐息が落ちる。 (なんか頭がずっとふわふわして……) ベッドの上、比良のお膝に向かい合って抱っこされた柚木。 いろんな角度からゆっくりキスされて、制服越しに体のラインをなぞられて、発熱が止まらない。 「ん、ぷ」 唇の内側をじっくり掻き回す舌先に、シャツの内側に潜り込んできた器用な指先に、柚木はもう涙目と化していた。 (なんかポカポカする、まさか……これって……) おれ、熱あるんでない!? このまま続行すると比良くんにうつしちゃうんでない!? 「柚木?」 束の間の息継ぎを与えようとしたら、柚木がぷいっと顔を背けたので、比良は目を見張らせた。 「どうした? 何か気に障っただろうか……?」 頼もしい胸に手を突き、精一杯距離をとろうとしていた柚木は首を左右にブンブン振ってみせる。 「ち、違う、そんなわけ……」 「じゃあ、どうして離れようとするんだ?」 「あのっ、おれっ、微熱あるかも……!」 「微熱?」 比良が着用する、大人びたアイボリー色のセーターをきゅっと掴んで、柚木は今度はこっくり頷いた。 「ふわふわして、ポカポカするっていうか」 「ふわふわ。ポカポカ」 「眠たいような、そうじゃないような……でもなんか楽しい、愉快愉快みたいな……」 「楽しくて、愉快」 「んひひ……変なこと言って、ごめんなひゃい、比良くん……ふひっ」 「……」 自分のヘンテコぶりに「?」状態ながらも、ふわふわ、ポカポカして、ワケもなく楽しくなってきて急に笑い出した柚木。 自分のお膝の上で妙なテンションでいるへっぽこオメガをしばし見つめ、別格のアルファは、ソレに目をやる。 バレンタインデーで比良から柚木に送られたチョコレート。 『わぁ……比良くんからもらえるなんて……とりあえず拝んでもいいですか……?』 比良に食べてほしいと言われて柚木は素直にその場で食べた。 これまでに食べたことのない大人びた味。 やたらと甘く、身も心も昂揚するようなチョコレートを三つ。 「もしかして」 ベッドの上に置いていた、まだチョコレートが残っている箱を手繰り寄せ、その匂いを嗅いだ比良。 「洋酒が使われているみたいだ」 「ようしゅ~?」 「特に注意書きはされていなかったし、そこまでアルコール成分は高くないと思うが」 「おれぇ、ようしゅチョコ食べちゃったの? うそぉ……どうしよ……」 「頭痛や吐き気はないか?」 「おれぇ、捕まっちゃう? 未成年なのにようしゅチョコ食べて、おまわりさんにおこられちゃう? 尋問されちゃう?」 どうにも洋酒入りのチョコレートでバッチリ酔ってしまったようだ。 熱をうつしてしまうかもと離れたがっていたはずが、今度は比良に頻りにじゃれつく柚木、いい匂いがするセーターに頬擦りした。 「比良く~ん」 飼い犬の大豆さながらにスリスリしていたら、ベッドにそっと押し倒された。 「ふわぁ、くすぐったい~……!」 耳たぶや首筋に落ちてきた軽いキスに柚木はふにゃふにゃ笑う。 「可愛い、柚木」 「比良くんはかっこいい! 世界一! 宇宙一!」 「柚木はお酒に酔ったらこんな風になるんだな」 「わぁぁ~……耳、かぢられちゃう~……!」 耳たぶをやんわり甘噛みされて柚木は腹を捩らせた。 「んっ」 チラ見えしていた薄い腹を撫でられると小さく身悶えた。 「おなかぁ、くすぐったい」 「柚木はお腹も可愛い」 「比良くんはぁ、ぜーんぶかっこいい! 世界一! 宇宙一!」 「ふ……」 すぐ真上から注がれた比良の微笑に柚木は素直に見惚れる。 「あ」 毛玉のついたグレーのセーターをシャツごと捲り上げられ、指の腹で胸の突端をおもむろに爪弾かれると、切なそうに眉根を寄せた。 「ここも。どっちも可愛くて、いつもどっちを先に可愛がろうか迷う」 「ん……どっち……? どっちがいい……?」 「……柚木」 「おれのどこが一番いい……? どこが一番好き……?」 普段は絶対口にしない台詞。 チョコレートで酔っ払っている柚木に比良の微笑は深まった。 「全部。柚木の全部、よくて、柚木の隅から隅までどこも一番好きだよ」

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