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Chapter 9―2
〈H side〉
グラスで2万円のシャンパンを一気に飲み干して、椿山ヒカルは満足の息を吐いた。
「あ~、美味しい。」
隣に座っている村上武智を横目で見ると、手に持つグラスの中身はほとんど減っておらず、酔いとはほど遠い顔をしていた。
―――初めて外に出た家猫みたい。
その表現があまりに村上のイメージとかけ離れていて、ヒカル思わず笑いそうになる。
しかし、今日に限って、村上は何故こんなに警戒心を発動しているのか。
ヒカルに言わせれば、今さらだ。
警戒するなら、初めからするべきだったのに。
「それで、ヒカルさん、お話しって何ですか?」
「え~、もう?」
「もう、って。ずっと気になってるんですが。」
話がある―――と、村上へ電話をして呼び出したのだ。嘘ではなく、本当に話しがあるのだが、用件だけというのも味気ない。
こんな格好で出迎えたが色っぽい事をするつもりはなく、ならば、言葉遊び程度の駆け引きくらいは楽しみたかった。
村上を振り回すのはちょっと気分がいい。
「どうしよっかな。ちょっと言いにくいんだよね。できれば、ほろ酔いくらいがいいんだけど。ほら、村上さん、全然飲まないし。」
ヒカルがそう言うと、村上は手に持っていたグラスを煽り、ゴクゴクと喉をならして飲み干した。
シャンパンには炭酸も入っているのだから、一気にはさぞや飲みにくい事だろうが、村上は平然としている。空のグラスをサイドテーブルに置くと、ヒカルの方に体ごと向けた。
「飲みました。酔いました。だから、話してくださいよ。お願いです。」
―――何だろう、この色気のなさは。
全く面白くない。
余裕がないのか面倒なのか知らないが、今日はヒカルと遊ぶ気がないらしい。ならば、引き延ばしても仕方がない。
さっさと用件を済ませる事にして、ヒカルもグラスを手放した。
「じゃ、前置きはなしにして、」
ヒカルが声のトーンを落とすと、村上が僅かに体を強張らせる。言葉ひとつに振り回される村上を見るのは、ちょっと気分がいい。今からの反応を想像して、また少し楽しくなってきた。
「村上さんは、誰のネズミ?」
ヒカルの問いに、村上は目に見えて顔を青ざめさせた。
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