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Chapter 9―3

「誰のネズミ?」 そう問い掛けられ、村上武智は自分の顔から血の気が引くのを感じた。 ―――バレていた。何故、バレた。いつから疑われていた。 まさか気付かれていたなど、思ってもいなかった。 もしかしたら、最初からか。最初からヒカルの手のひらの上で泳がされ、右へ左へ流されていたのかもしれない。 今までの浮かれきった自分の行動が走馬灯のように頭を駆け巡る。 だとしたら、なんと滑稽な。 「できたら隠さずに教えてくれない?返答次第では、悪いようにはしない―――、かもしれない。」 衝撃から言葉が出ない武智を見て、ヒカルが嬉しそうに笑う。追い詰める事が心底楽しいらしい。思ってた以上にいい性格をしている。 いやいや、ヒカルを観察している場合ではない。この危機的状況をどうにかしなければ。 「あ~、でも、味方を裏切るような真似はしにくいよね。そうだよね。わかった。今日は村上さんの事は聞かないであげる。代わりに、あなたの敵を教えてくれない?」 ―――敵、だと。 聞かれても答えられるはずがない。村上からしても、誰をマークすべきなのか把握していないのだ。喜原組組長の周囲を含め範囲を広げていけば、ヒカルだって対象になる可能性もある。 「敵は、分からない。」 「ん?ああ―――、なるほど。調べきれてないんだ?」 誤魔化すつもりはないと、すぐに見抜いた上、村上の置かれた状況を、ヒカルに一瞬で把握された。その尋常じゃない頭の回転の速さに、ぞくっと背筋が凍る。 ―――勝てる気がしない。 ヒカルの頭の良さを気付かずに、今までどれだけボロを出した事か。尻尾を巻いて逃げ出したくなる。逃がしてはくれないだろうが。 村上が完全に臆したのを見て、ヒカルがニンマリと笑う。 「じゃあ、ちょっといい情報をあげようかな。」 「情、報?」 「イイ事、教えてあげる。こっち側についてくれたら、会長さんには言わないよ。村上さんにとって、悪い話じゃないんじゃない?」 ヒカルはまるで悪魔のような提案をし、聖母のように微笑んだのだった。

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