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Chapter 11―3
武智が再びホールに戻ると、既に誕生日パーティは始まっていたようで、壇上では司会者が嬉々とマイクを握っていた。
主役のスピーチには間に合ったらしく会長の喜原昇太郎はテーブルにて、司会者の話も聞かず隣席のハゲ頭と談笑している。あのハゲ頭には見覚えがあった。喜原組の幹部のひとりだ。
―――確か、武下か、武内か。
「ちょっと、男じゃないの。」
引き摺られるように壁際の席へ座らされると、由佳里が勢い込んで身を乗り出してくる。ハゲ頭の武某と会長を見ていたので、一瞬何を問われているのか分からなかった。
「ああ、ヒカルさん?」
「そうよ。愛人って言うから、てっきり女だとばかり。あなた、男も平気だったのね。意外。女たらしと思ってたわ。」
「たらしてないですよ。」
武智が苦笑いをすると、由佳里が腕をつついてくる。
「別に平気ではないんですが、ヒカルさんが別格というか、」
「あなた、それって―――」
由佳里が何かを言いかけたが、司会者のワントーン上がった声に遮られた。
『それでは、会長よりご挨拶を頂きたいと思います。』
いつの間にか司会者は壇上から降りており、態とらしいほど仰々しい仕草で片膝を付き、会長に向かってマイクを差し出した。
シンと会場が静まり返る。
会長は上機嫌な様子で立ち上がると、マイクを手にし挨拶を始めた。
『今日はよく来てくれた。こういうのはいらんと言っておるんだが、武内が聞かんくてな。堅苦しいのは好かんから、挨拶には来んでええ。各々、気楽に楽しんでくれ。』
会長の人好きのする朗らかな挨拶に、思わず顔が綻ぶ。暴力団体の組長をしているくらいだから冷徹な顔も持っているのだろうが、武智はまだ片鱗さえも見た事がない。
『でな、今日は皆に伝えときたい事があるんや。』
会長が珍しく真剣な顔で、会場の人とひとりひとりの顔を確認するように見渡す。何か大変な事を発表するのだと予測し、場が緊張に包まれた。
―――これか。
皆が固唾を飲む中、会長は一度深く息を吸うと、あっさりと本題を口にする。
『わし、来年、引退するわ。』
ザワッと会場が揺れた後に、会場の視線が二人の人物へ流れた。
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