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Chapter 12―1
「それで、どうします?」
乗り慣れない車のエンジンをかけてから、村上武智は助手席を横目で見た。
「今まで通り、あなたは長男についてればいいわ。」
由佳里は疲れたように力なく肩を竦め、ポツリと返す。早く帰宅したそうな由佳里の様子に、車を走らせる事にした。
―――長男。
喜原昇太郎には二人の息子がいる。
兄の名を勝基、4つ下の弟を遼基という。この兄弟は母親が別々で、兄の勝基が愛人の子、弟の遼基が本妻の子なものだから、少しややこしい関係にある。
勝基は頭が良くカリスマ性もあるが、その能力は『キハラホーム』にのみ注がれ、喜原組とはずっと一定の距離を保ってきた。
それに対して、遼基はどっぷり暴力団の世界に身を置き、昇太郎の後釜を狙っているものの、どうも組長には若干役不足な感が否めない。
とは云え、勝基の無関心ぶりを見れば、恐らく遼基が次期組長になるのだろう―――それが、喜原組員の共通認識だった。
「ねえ、あなた、知ってたの?」
「いえ、全く。まさか昇太郎氏が降りるとは。どうなりますかね?」
知っているのかと由佳里に問われて、少しドキリとした。椿山ヒカルに諸々バレている事を、言い当てられた気がしたからだ。
打ち明けるべきだとは分かっているが、伝えてしまえばこの任務は外される事になる。
それはどうしても嫌だった。
「さあ、どうなるかしら。」
由佳里がどうでも良さそうに呟く。
「弟の方は調べなくていいんですか?何か仕出かすかもしれませんよ?」
喜原兄弟の安定した関係が覆され始めたのが、今から4か月前。
全く出入りしていなかった喜原組に勝基が顔を出すようになり、最近では組長の昇太郎と行動する姿が目立つようになっていた。
そこに来て、昇太郎の組長引退宣言だ。
遼基側がざわつかない訳はない。
「次男にも、別に付いてるから。」
別の人員が潜入している―――という意味だ。薄々は気付いていたが、それを由佳里が認めるとは思わなかった。
「やっぱりですか。誰かは教えてもらえませんよね?」
「知らなくていい事ね。」
「ですよね。」
由佳里に案の定バッサリと切られ、武智は苦笑いを浮かべ、これ以上の追求を諦めた。
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