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Chapter 12―2
船上パーティーから2日後の金曜日。
武智は閉店間際の『camellia』のドアを開けた。
寝る直前に呼び出されて来てみれば、すでに照明は絞られており、店内に客の気配はない。そして、呼び出した張本人であるはずの椿山ヒカルの姿もない。
どういう事だ。
ヒカルへ電話をしようとスマホを取り出した時に、カタン―――と、奥から僅かな物音が聞こえた。
「ヒカルさん、村上ですが?」
武智は声をかけながら、バックヤードに足を踏み入れると、最初に調理場が目に入った。そして、調理場の右にドアが2つ。
そのドアの向こうの部屋の広さは分からないが、確実に店より面積はあるだろう。
「ヒカルさ―――」
ガチャ―――と、奥のドアが開き、ヒカルが出てきた。探していたヒカルが見付かったのは良かったが、彼の姿にギョッとなる。
「あ、村上さん。早かったね。まだだと思ってシャワーしてた。」
スポーツタオルで下半身を巻いただけの格好で、ヒカルが言う。
何度も眼前に晒された体だと云うのに、見る度、美しさに見惚れてしまう。美術品を目にした時のような神聖な気持ちではない。溶岩がドロドロと地面を這うような感覚だ。
―――あれが欲しい。
ヒカルを渇望している。
突き付けられる現実に打ちのめされるものの、激流のような衝動の方が遥かに強い。
湧いてきた生唾を飲み込むと、武智の喉が鳴った。
ヒカルは気にした様子もなく、ロッカーを開けてマイペースに着替えを探している。
「急にごめんね。伝えたい事があって。ここで話そうか?それとも、どこか―――」
ヒカルがシャツをゆっくりと羽織って振り返る。警戒心のなさに腹が立った。
「ヒカルさん。」
「なに?怖い顔して。」
「早く服を着てください。」
「あ~、もしかしてしたくなっちゃう?」
ニヤリとからかうように笑って、ヒカルが体のラインを見せつけてくる。
簡単に男を誘うようなヒカルだ。今ここにいるのが武智でなくとも同じようにするのだろう。もし襲われたとしとても、ノリノリで応じるヒカルの姿を想像できた。
胸くそ悪い。
「なります。好きなんですから。」
武智が吐き捨てるように言うと、ヒカルは邪気の抜けた顔で瞬いた。
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