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Chapter 13―2
武智が慌てて扉を開ければ、そこには綺麗な女が立っていた。
「近くにいたから、来ちゃった。」
女は愛らしくそう言うと、武智が押さえている半開きのドアの隙間から、猫のようにスルリと室内へ滑り込む。
「来ちゃった―――って、どうやって。」
セキュリティが万全とはいえないが、武知の住んでいるマンションはオートロックである。パパッと上がって来れるような造りになっていない。
いや、それより、問題は別にある。
「しかも、何ですか、その格好。」
武智が問うと、女に化けた椿山ヒカルが、靴を脱いで振り返える。
「変装。オレだって分からないだろ?」
確かに分からない。
髪はストレートのセミロング、大きめのティシャツにパーカーを羽織り、色落ちしたジーパンに真っ赤なヒールの靴。ちょっとボーイッシュな格好の女学生に見える。
とても男とは思えない完成度の高さだ。
女にしか見えない姿をしたヒカルは、招かれてもいないのに上がり込むと、リビングのソファへ腰を降ろした。
「日にちが分かったよ。」
ヒカルの唐突な言葉をすぐに理解できず、ポカンとなる。数秒遅れて気付き、武智はヒカルの傍に寄った。
「9日後の深夜2時、西港だって。」
「もう、ですか?確かで?」
「社長さんの事だから、確かでしょ。協定通り、組には手を出さないでよ?」
「分かってます。」
協定というより、脅迫に近いと思ったが、無意味な反論はせずに武智は頷いた。
「あ、それでね。直接はもう会わない方がいいかも。連絡は電話でいい?村上さんのスマホ、盗聴とかのセキュリティは?」
会わない―――というヒカルの言葉に動揺したが、関係を切るような意味合いではないらしく、心底安堵した。
―――ホッとしてる場合じゃないだろ。
「大丈夫ですが。何か、ありましたか?」
「いや、まだないよ。ただ、社長さんの弱味になると思ってるのか、オレがあちらさんにマークされてるんだよね。村上さんと繋がってるのはバレない方がいいと思うし、」
物騒な立場に置かれているヒカルにギョッとなる。言われてみれば、確かにヒカルみたいな、愛人の立場の人間は狙われやすいのかもしれない。
「ヒカルさんは平気なんですか?」
「オレ?平気、平気。」
あっけらかんとヒカルが言う。武智が眉間にシワを寄せると、ヒカルがコテッと首を傾げた。
そんな格好で可愛らしい仕草をされると、余計に女っぽさが増して、目の前にいる相手がヒカルだと忘れそうになる。
「信用できない?そんなに間抜けじゃないよ。」
頭がキレるのは分かっているが、緊張感の無さが心配だ。油断しすぎではないだろうか。
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