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Chapter 14―1
日付が変わり時計の針が数字の1を指す時間に、村上武智はスマホを見つめていた。
―――遅いな。
椿山ヒカルとの定期連絡の時間で、今日は既に30分以上もオーバーしている。
伝える事が何も無ければ、『問題なし』とだけメールが入り、そうでなければ電話がかかってくる。直接会うことは禁じられているのだから、せめて声だけでも聞ければ、と思ってしまう。
―――我ながらガキ臭い。
武智がひとり苦笑いをすると、ブブブ―――と、バイブ音が静かな室内に響いた。どうやら今日は問題がある日らしい。時間が遅れたのもそのせいか。
「はい、村上です。」
『喜原だ。』
予想と違う低い声が聞こえ、一瞬だけギョッとなった。
―――喜原、喜原勝基か。
「社長、どうかされました?」
『ヒカルが消えた。』
え?―――と、音にならない声が武智の口から出る。
『まだ確認はできていないが、恐らく弟の手の内だろう。』
弟の遼基に捕まっているのか。ヒカルが暴力を振るわれている様子を想像し、背筋が震えた。
早く助けなければ。
「ど、うします?」
『計画に変更はない。』
「いえ、そうではなくて。ヒカルさん、助けますよね?」
勝基の検討違いな返答に、武智は苛立った。確かに計画も大事だが、ヒカルの救出が先であろう。
『いや。わざと拐われた様だから、放っておいて構わない。何か考えがあるのだろう。』
「そんな、」
ヒカルを見放すような冷淡な物言いに、ショックを受けた。何故か、武智が裏切られたような気分に襲われる。
「ヒカルさんが心配では―――」
『無いな。アレはオレより獰猛だ。』
勝基の答えに愕然となる。
ヒカルがいくら強いと云っても、拘束されているだろう状態からどうやって逃れるのか。
そもそもヒカルが本当に強いのかどうか、武智は半信半疑だ。あの細い体では、とてもそんな風には見えない。
『村上、まだ動くなよ。今、下手に動けば、ヒカルにもおまえにも、危険が及ぶ可能性が高い。』
麻薬取引まで、あと4日。
まだとは、いつまでだ。
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