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Chapter 15―2

〈H side〉 そろそろ向こうへ戻ろうと思っていた時に、椿山ヒカルの耳へ馴染み深い男の名前が飛び込んできた。 「村上武智?誰だ、それは。」 喜原組の組長候補である喜原遼基が怪訝そうに言う。遼基の視線の先には、彼の部下であるらしい小男が、緊張した面持ちで立っていた。 「『キハラホーム』の税理士らしいです。浅田が捕まえたらしいんですが。」 「兄の犬か。何か吐いたのか?」 遼基が問うと、小男が何とも言えない顔をこちらへ向けてくる。小男のその視線を追って、振り返った遼基と目が合い、ヒカルは瞬いた。 「あれか?」 「はい。椿山ヒカルを捜してるみたいな事を言ってるらしくて。」 村上がヒカルを捜していた。 ―――何をしてるんだ、あの人は。 何もせず大人しく待てばいいのに、探し回った挙げ句、間抜けにも捕まっているらしい。 ヒカルが思わず苦い顔をしてしまうと、それを見た遼基が厭らしく笑う。 「なるほど。兄の部下にまで手を出してるのか?呆れた奴だな。」 村上の存在を都合の良いように解釈され、ヒカルは内心で安堵した。只の遊び相手と思わせるのが賢明だ。 もし、犬だとバレたら村上は生きて帰れないだろう。 「好みなんですよ。」 ヒカルがにっこり笑って言うと、遼基は村上に対する疑いをあっさりと捨てた。 「関わりないと思うが、用心のために終わるまでは監禁しておけ。」 「では、浅田に任せます。好きにしていいかって煩くて。」 小男の言葉に、くくっ―――と、遼基が笑う。怪訝に思うと、遼基が再びこちらに顔を向けた。 「その税理士、浅田に掘られちまうかもな。」 思いもせず、ギョッとなる。 「村上さんを?あの人、180はあるけど。」 「浅田は2メートル以上だから余裕だ。」 ―――2メートルって。 頬をひきつらせたヒカルを見て、また遼基が楽しげに笑った。

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