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Chapter 16―2
ガッ―――という殴るような音と共に、武智の体内で好き勝手していた指が抜けて行った。
「―――ぐぁっ!」
背後で浅田の呻く声が聞こえる。何があったのか確認しなければならないが、薬のせいで平衡感覚が壊れていて、体を起こそうとしてもすぐに崩れてしまう。
「何者だ!?」
誰か現れたらしく浅田が叫んでいる。
武智の味方―――例えば、由佳里が心配して誰か寄越したのかもしれない。もうすっかり諦めていただけに、涙が出そうになった。
「あれ?オレの事、知らない?」
この場に似つかわしくない呑気な声に、武智はギョッとして顔を持ち上げた。
聞き覚えがありすぎる。この声を間違いようがない。
―――何故、ここに。
「知るか!」
浅田が苛立ったように叫ぶ。
武智は力を振り絞って、ガクガク震えながら体勢を変え、振り返った。
―――ヒカルさん。
すぐそこに、行方知れずだったはずの椿山ヒカルが立っており、反対側には浅田が頭から血を流していた。ヒカルの無事な様子を確認できて、ホッとする。
―――良かった。
「まあ、いいか。そこの人、渡して欲しいんだけど。」
ヒカルの言う、そこの人―――が、武智の事だ。
今からシェイカーを振りそうなほど、いつも通りのヒカルだ。この手に汗握る場面で、緊張感は全く感じられない。
「あ?渡すワケないだろうが!」
浅田が顔を真っ赤にして叫ぶ。
ヒカルはこちらへチラリと視線を投げてから、また浅田に戻す。
「そうだろうけど、その人にはまだやってもらう仕事があるんだよね。素直に渡してくれたら、もう手荒な真似はしないよ。」
ほら素敵な提案だろう―――とでも言うように、ヒカルが子供に対するように微笑む。
怒らせる天才だ。
「ふざけてるのか!?」
案の定、浅田の怒りは頂点まで達した様子で、ナイフ取り出し右手に光らせた。それを見て、ヒカルが深いため息を吐く。
「はぁ―――、仕方ない。じゃあ、手っ取り早く返してもらう。」
クッ―――と、ヒカルが男臭く笑う。
ガラリと変わった肉食獣を思わせる気配に、武智は背筋を凍らせた。
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