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Chapter 18―3

なぜ―――という言葉が頭を廻る。 血まみれの右手から視線を上げれば、男が倒れていた。さっき上から確認した時に、遼基の脇に控えていた男だ。 倒れている部下の男の向こうからは、由佳里が麻酔銃を構えていた。由佳里がこの男を撃ったのだろう。そう状況を理解して、武智は再び視線を下げた。 スウッと指先が冷える。 つまり、部下の男が武智の背中に発砲し、それをヒカルが庇って撃たれたのだ。 血の気を失ったヒカルの顔を見下ろし、なぜ―――と、また思う。 ―――そうだ。 ヒカルの止血をしなければと、やっと思い至る。冷静なつもりでも、やはり混乱しているのだろうか。ぼんやりしている場合ではない。 武智がヒカルの体の出血場所を探し始めると、由佳里が走り寄ってきた。 「意識は?」 「ありません。出血が酷いですね。」 もう既に、武智の足元まで血だまりができている。今の一瞬で、ヒカルの体はこれだけの血を流したのだ。 武智は震えそうになる手を叱咤して、ヒカルの首からネクタイを引き抜いた。 「これで押さえるわ。」 どこに持っていたのか、由佳里がタオルを取り出してみせる。由佳里がヒカルの肩の出血場所にタオルを当て、武智はさっき引き抜いたネクタイでそこをキツく縛った。 「運んだ方が早いわね。外に救急車が待機しているわ。ひとりで運べる?」 「大丈夫です。他は?」 由佳里に聞きながら、武智は辺りを見渡した。見える場所に人はおらず、銃撃の音もしない。 もう鎮圧したのだろう。 「無事、ミッション終了よ。あと片付けはいいから、早く病院に運んで。」 「はい。では、行きます。」  ヒカルを横抱きにして立ち上がる。 腕にかかった重さに少しフラつく。散々抱いてきた体だから、慣れている重さである筈なのに、いつもより重く感じた。 気を失っているせいか。それとも、武智の精神的なものか。 ―――なぜ、庇ったんですか。ヒカルさん。 冷えていく体に体温を分けるように、しっかりとヒカルを抱き締めて武智は走った。

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