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Chapter 19―1

昨日の真夜中、警察病院へ搬送された椿山ヒカルは無事に手術を終えていた。手術を担当した医者からの説明によると、命に関わるような問題はないらしい。 ヒカルが目を覚ますのを、治療室でじっと待っていると、知り合いの看護師に追い出された。治療室の真ん中でぼうっと立っていたから、邪魔だったのだろう。 しかし、いくら邪魔だったとしても、普通は蹴らない。白衣の天使とは思えぬ対応だ。 仕方なく一度帰宅してから、三時間ほど仮眠を取ると、村上武智は再び病院を訪れていた。 「いいのですか?」 武智は警察病院の施設前で立ち止まり、スマホで由佳里と話しをしている所だった。 『ええ、休んでいいわ。けれど、明日からは残りの仕事をきちんと終わらせるのよ。』 「すみません。責任持ってやります。」 事後処理を少し憂うつに思っていたのを、見透かすように由佳里に言われて、武智は苦笑いした。 これから『村上武智』を消さなければならない。最初から分かっていた事だから、大して未練があるわけではないが、やはりヒカルとの繋がりだけは切りたくないと思ってしまう。 実は、その方法は簡単だ。 武智の本名をバラしてしまえばいい。 ―――警察官失格だな。 由佳里との電話を終えて、治療室へ向かうと、そこにヒカルの姿がなかった。病状が安定すれば、病室へ移動される。 もしかすると、目を覚ましているかもしれない。 ポン―――と、肩を叩かれて振り返ると、白衣の天使らしからぬ看護師、羽山がいた。 「あ、羽山さん。」 「お早いお戻りで。椿山さんは4階の2011号室ですよ。」 羽山がにこやかに教えてくれる。やはりヒカルは移動になったようだ。 「意識は―――」 「まだですが、問題はありませんよ。今日中には目を覚ますと思います。」 「そうですか。ありがとうございます。」 頭を下げてエレベーターに足を向けると、羽山に呼び止められた。 「知っていると思いますが、面会時間は11時50分までですからね。」 夕方まで居座る気でいたのたが、羽山から釘を差されてしまう。 何故バレたのだ。羽山といい、由佳里といい。そんなに分かりやすいのだろうか。 神妙な顔を作って羽山へ頷き返し、武智はエレベーターで4階まで上がった。

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