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Chapter 19―2
―――雨になるのか。
窓の外の空は雲で多い尽くされ、黒く重く厚みを増していた。武智は客用のパイプ椅子に座り、その様子をぼんやりと眺めていた。
病室は無音だ。
その静かな部屋の真ん中では、ヒカルが身動ぎもせずにこんこんと眠っている。
背中から撃たれた為にうつ伏せの体勢で寝ているのが、何となく日常的で、酷い怪我をしていると一瞬忘れそうになったりしてしまう。
腕時計に視線を落とすと、面会時間が残り20分を切ろうとしていた。
―――無理そうだな。
明日からしばらくは事後処理で忙しく、見舞いには来れそうにない。だから、せめて目を覚ましたヒカルの姿を見ておきたかった。
起きろ、起きないとキスしてやる―――と、念じてみる。
すると、武智の不審な気配を感じたのか、何の予告もなく、ヒカルがパチリと目を覚ました。
「ヒカ―――」
目を開けたかと思いきや、すぐさま両手を付いて起き上がろうとするものの―――。
「いっ、つぅ!」
ヒカルは悲鳴のような声を上げて、再びベッドへ崩れた。
「まだ動かない方がいいです。」
「あれ、村上さん。オレなんで―――」
武智が歩み寄り声を掛けると、ヒカルが不思議そうに見上げてくる。
「ヒカルさん、撃たれたんですよ。」
「ああ、そっか。撃たれたのか。―――あれから、どれくらい経ってる?」
「半日くらいです。何です?」
会話をしながら、ヒカルがパタパタと手を動かすので、武智は首を傾げた。途端に、ヒカルがムッとしたような顔をする。そんな顔をされても、何が言いたいのか分からない。
「―――起きたい。手伝って。」
ヒカルがむすっとして言う。いや、分かれという方が可笑しいと思うのだが。
そう思ったが、余計な事は言わずに、武智は手を貸した。
「そういえば、喜原社長に連絡は?何か言ってた?」
「今日は無理らしいですが、明日は来るそうです。」
「いや、来なくていいって言っておいて。」
あっけらかんと言われて、武智は戸惑う。会いたいものではないのか。
「―――いいんですか?」
「あの人、大忙しでしょ。弟が捕まったんだから。」
「そうでしょうけど。」
「代わりに、村上さんがついててくれたし。」
ふふ―――と、ヒカルが愉しげに笑う。ヒカルにとっては他愛ない言葉遊びでも、武智の胸はバカ正直に締め付けられる。
叶わぬ想いだと突き付けられたようで、堪らない気分だ。
「ヒカルさん、なぜ―――、」
武智の絞るような声に、ヒカルはキョトンと顔を上げた。
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