4 / 46

第4話

二人が城に秘密の通路から戻ると、そこにいるはずの人々の姿はなく、出て行った時にあった賑やかさも一切なかった。 「誰かいるか?」 ラントアが大声で城の中に呼びかけるが、それに返事する者はいない。 「ガルーもいないみたいだね?」 スーラがぼそっと呟いた。 「スーラ、俺の側を離れるな!…スーラ、おい!」 俯いたままでいるスーラの体を揺らす。 「離してくれないか?王子…」 スーラが先程までとは違う冷たく硬い声を出す。 ラントアが何かを感じたように後ろに後ずさった。 突如、ブワッとスーラの髪の毛が逆立ち、その体をモヤのようなものが覆い隠していく。 「スーラ!スーラ!何をしている?!」 ラントアがそのモヤの中に手を突っ込んでスーラの体を手探りで探す。 パシンと手を打つ音と痛みに手を引いたラントアの目の前に、先程までとは違う黒い翼を翻したスーラがその姿をモヤの中から現した。 「スーラ…なのか?」 ラントアが一歩近付く。 しかし、それを遮るようにスーラが翼を翻した。 「近寄るな!お前は我らが捕虜となる者。」 「スーラ…何を言っているんだ?」 スーラがラントアに冷たい目を向けた。 「僕は、お前達が彼の国と呼ぶ所の王子として産まれた身。ある計画のために今まではスライムとして身をやつして来たが、それも今これまで。ラントア、この国の王子としてのその身、我らの捕虜として連れ帰らせてもらう!」 話を聞いていたラントアがそうかと呟いてソファに座った。 「城の者達はどうしたんだ?」 「すでに仲間達によって…殺されたはず。ガルーもだから一緒に行こうって言った…くそっ!違うんだ、違う!!例外はない…だから皆は殺された…殺した!!この国を滅ぼした!!」 スーラが苦しそうに頭を抱える。 それをソファから立ち上がったラントアが抱きしめた。 「な…っ!?」 腕を突っ張って押しのけようとするスーラのその腕を掴むと、ポケットの中からバングルを取り出し、その腕に取り付けた。 「これ…は?」 「俺の子孫残しの相手という証だ。」 「何を言っている?僕の話を聞いていなかったのか?この国は滅びお前は捕虜として…っ!」 喚き散らすスーラの口をラントアの手が塞いだ。 「仲間の姿を見たか?この城にお前の仲間の姿はあるか?」 はっとするようにスーラの目が見開く。 「おい、そのバングルはルール違反じゃないのか?」 いつの間にかガルーが部屋の扉を開けて立っていた。 「ガ…ガルー?!何故ここにいる?何で?」 愕然とするスーラに近付くガルーとの間にラントアが立ち塞がった。 「これは古よりの契約に則った約定。この者はこれより王子ラントアの子孫残しの相手となった。何人も手出し無用!」 「だから嫌だったんだ!クソバカ王子!!」 ヒュンと風を切る音と共に鞭がしなる。 「ってぇえええ!」 手の甲をさすりながら飛びのいたガルーがはあと大きなため息をついた。 扉の外に向かってもういいぞと声をかけると、先程までの静けさが嘘のように喧騒が城に戻って来た。 「どういう…」 今にも崩れ落ちそうに青ざめた顔のスーラをラントアがソファに座らせ、その横に自分も座った。バタンと扉を閉めたガルーが向かい合ったソファに座り、その赤くなった手の甲に息を吹きかけながら話し始めた。 「お前の、スーラ王子、あなたの国は滅んだ。」 「何の…事だ?」 「お前達がこそこそと何かをしようとしていた事のその裏をかかせてもらった。俺の言った仕事とはお前の国を滅ぼす事。すでにお前以外の彼の国が在った証はこの世にない。」 悪いなとスーラに言うとラントアに向き直った。 「バングルはしないと、例外は作らないと…それが約束だったはず。だから最期二人きりの時間を作ってやった!なのに…お前っ!!」 怒りに煮えたぎった目で食ってかかるガルーを全く意にも介さずラントアがスーラの羽根に触れた。 「美しい…スーラ、なんて美しいんだ…」 「…めろ…やめろ!!お前は仲間の仇!!僕に触れるな!!」 ラントアの手を振り払ったスーラに、ラントアが静かに語りかけた。 「お前達がしようとした事を、その同じ事をしたまで。これがもし計画通りなら、お前がいるその立場に俺がいた事になる。先に剣先を突き付け、それを折られたからと喚き散らすは無様ではないのか?」 「ラントア、お前は本当に容赦ない奴だな…。」 ガルーが深く大きなため息をつき、憐れみの目でスーラを見た。 「さて、そんな可哀想なスーラにこれ以上辛い思いをさせるのは忍びないが… 子孫残しの相手となった以上は器官合成の術を受けてもらわなければならない。ラントア…いや、ラントア様、よろしいですか?」 一瞬の間を置いてラントアが頷くと、未だに状況の飲み込めぬ顔のスーラを両腕で抱き上げた。

ともだちにシェアしよう!