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第5話

「器官合成の術…?」 ラントアに抱き上げられたままで部屋から廊下に出たスーラが呟いた。 「お前がラントアとの子を産めるようにする為、その体内に器官を合成する。この約定ができてから、その器官がないモノを選んだ時用に、両国の間で相談し、互いの持つ最高位の術師達が協力し作られた術だ。」 説明するガルーの話を聞いていたスーラが自分の状況に気がついたようにはっとした顔で手足をばたつかせる。 「下せ!下せってば!!」 「お前は今やお前が先程俺に言った捕虜に近い身だと理解しているか?逃げる、もしくは自害する恐れがあると分かっている者を下せと言われて、下ろすわけがないだろう?解放するわけがないだろう?」 ラントアに言われてスーラの動きが止まったが、すぐさま身体を震わせながらラントアに食ってかかった。 「だったら…だったら殺せ!!こんな屈辱は受け入れられない!!誰が子など産むものか…お前との子など…絶対に、絶対に産まない!!」 大声に城の者達の目が注がれる。 「注目されたいのなら構わんが…」 「くっ…。」 視線を感じたスーラが口を閉ざしてラントアの胸に顔を埋める。 暖かい湿り気を感じてラントアが術師のいる部屋に向かいながらスーラに優しく語りかけた。 「突然の事、思いもかけなかった事に驚き、自分の置かれている立場に困惑しているのだろうが、実の所、お前と俺の関係もこの国の者達との事も今までと何も変わりはしない。彼の国が滅んだ事は、ほんの一握りの者達しか知らぬ事。なので、皆が子孫残しはしなければならぬ事と認識したまま。そしてこの世にお前以外の彼の国の者はいない。もう私の相手となる者はスーラ、お前しかいない…ああ、着いてしまったか。」 いつの間にか階段を降り、地下の薄暗い廊下を進んだ突き当たりに、ランプの灯で浮かび上がる黒い重厚な扉。その扉の前に立ち、大きく深呼吸をしたガルーがノックをする。 重そうな音を立てて開いた扉の向こうに黒いフードを頭からすっぽりと被った男が顔を出した。 「お待ちしていました。準備万端、滞りなく…さあ、お入り下さい。」 そう言って、扉を背にして招き入れる。 ごくりと喉を鳴らしたガルーが恐る恐るその部屋に足を踏み入れると、ラントアを手招きした。 頷いて、ラントアとラントアに抱き上げられたままのスーラがその扉の中に足を踏み入れる。 3人の体が闇に吸い込まれていく後ろで、扉が大きな音を立てて閉まった。

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