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第23話
雑務に思いの外時間がかかり、部屋の扉の前に戻ってきたのは出て行ってから数時間の時が経っていた。
「悪かった…っ!」
謝りながら扉を開けたラントアに向かって飛んできた白い布を、身体を斜めにして避ける。
スーラが自由にしておいた足で、かかっていた布を蹴飛ばしたらしい。
「…遅いんだよ!くっそ…んん…もっ…もう…はあぁああ!」
腰から背中が跳ね上がり、腕を戒めている布が引っ張られ、ベッドがギシギシと軋む音がする。
ラントアが落ちた布を拾い上げ、ゆっくりとスーラに近付く。
布をそのままベッド横に置くと、スーラの横に座った。
ギシっという音と、重さでスーラの体が少し沈む。
「イくな、と言ったはずだが?」
スーラの腹の辺りに飛び散った白濁の液体を指で拭う。
「何回イった?ん?」
スーラの目の前でその指を揺らす。
「…るさいっ!だったら、早く帰ってくればいいだろ?こんなのでイくなんて、僕だって…っ!」
「泣いているのか?」
「違うっ!」
「そうか…」
そう言いながら、ラントアがスーラの頬を伝う雫を拭った。
「それで…少しは俺を欲しくなったか?」
「え?」
「そんなつもりではなかったんだが、あんまり悠長に事を構えていられなくなった。これもちょうどいい機会…欲しがれよ、スーラ。」
ラントアが既に自身を受け入れるほどに開いた蕾を、指でその周囲を円を描くようになぞる。
「ひあっ!」
「いい声だ…なあ、何もお前の心を寄越せと言っているわけじゃない。ただ、たった一瞬でいいんだ。俺の心を受け入れてくれ。」
「勝…っ手な事…くぅ…ばか…ぁあっ、!」
「もう限界だろう?頼むから、今のうちに俺を受け入れてくれ!そうじゃないと…」
バタンと扉の開く音がして、ラントアが渋い顔をした。
立ち上がり振り向きながら、おいておいた布をスーラの体にかける。
「スーラ、頼む。おまえにこれ以上の辛い思いをさせたくないんだ…スーラ!」
「時間を…」
「無理だ。もう、時間切れなんだ、スーラ。俺におまえを守らせてくれ!」
まるで悲鳴のようなラントアの切実な声に一瞬心が揺れるも、自分を見ていると囁いた声が脳裏をよぎり、無意識に身震いする。
「…無理だ、無理だよ!仇を受け入れるなんて、仲間に…」
もうとっくに顔も忘れている仲間…それでも、仲間。殺された僕の…仲間達。
仲間達の朧げな顔を必死で思い出し、その無念を想う。
痛かっただろう、怖かっただろう…そうだ、殺された。
仲間達はラントアに、人間達に殺されたんだ。
滅ぼされた僕の仲間達…仇の子を産んでまでこの命を長らえさせる意味なんて…ない!
スーラがキッと顔を上げてラントアの視線と対峙する。
「おまえの心を受け入れ、おまえの子をこの身に孕ませるくらいなら、さっさと殺せ!僕を仲間の、仲間達の元に行かせてくれ!」
「スーラ…」
ラントアが悲しい顔でスーラの頬を撫でた。
そこに黒い影が近付き、ラントアの肩を掴んだ。
「もう少し…もう少し時間をくれ…」
ラントアの悲痛な声に影が首を振る。
「これ以上は待てない。おい、頼む。」
「ガルー?」
その声で影がガルーだとわかったスーラが名前を呼んだ。
「お前は受け入れるだけで良かったんだ…そうすればこんな事はしなくて済んだ。これはお前のせいだ、スーラ、お前がこういう事を俺達にさせるんだ!」
「なに?何をするって…ラントア!何をっ!?」
ガルーの後ろからサンクリウスが顔を出したのを見て、スーラが凍りつく。
「術…師のあなたが…どうして?」
「勿論、あなたに術を施す為ですよ、スーラ様。」
にっこりとした笑顔を向けられ、スーラが一瞬で青ざめる。
「ちょうど良い手枷、手間が省けました。さあ、スーラ様…始めましょう。」
いつの間にか、ラントアとガルーの姿は部屋から消えていた。
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