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第27話
二人がラントアの部屋の扉の前に着き、ガルーがノックをする。
中からどうぞと言う声が聞こえてガルーが扉を開けた。
その間も惜しむほどに足速にラントアが部屋に入って行く。
後ろから付き従うガルーが静かに扉を閉めた。
ベッドの横に立つサンクリウスにラントアが尋ねた。
「それで?」
「もう、いつでもどうぞ。」
「スーラの…心は?」
「見ての通りです。」
サンクリウスの視線の先のベッドの上で、静かにスーラが寝息を立てている。
その顔には今までの苦悩はなく、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「スーラは、どうなったんだ?」
ラントアの再びの問いに、サンクリウスがガルーに近付きながら首を振った。
「どうもなりません。ただ忘れさせただけですから…あなたが仇と言うことを。起きればあなたを愛し、受け入れるでしょう。それもスーラ様ご自身が望んだこととして。」
ふうとため息をつき、ガルーの体に寄りかかるサンクリウスを、ガルーがその腰に手を回して身体を楽にさせる。
「スーラ自身が望む?」
ラントアがスーラの顔を驚くように見ながら、サンクリウスに尋ねた。
「はい。それとスーラ様は眠りにつく直前に私に伝言を残されました。監視されていると。自分以外にも彼の国の者が一人は生きていると…しかもこの国で。」
「おい!本当か?本当にスーラがそう言ったのか?」
ガルーがサンクリウスの肩を掴んで揺さぶりながら尋ねた。
「ガルー、やめて下さい。私は伝言を伝えた迄。今夜はこのまま自分の部屋に戻ります。ラントア様、失礼致します。」
「ああ、大変なことを頼んで申し訳なかった。ゆっくりと休んでくれ。」
ラントアに向かってサンクリウスが一礼をすると、呆然としているガルーの横をさっさと通り過ぎ、扉を開けて部屋を出て行った。
バタンと言う音でガルーの意識が戻り、掴んでいたはずの恋人の体がない事に気が付くと、キョロキョロとあたりを見回す。
ラントアが扉の方に視線を向け、それに気が付いたガルーが頷いて急いで部屋から出て行った。
バタバタという足音が聞こえなくなり、部屋の中に静かな時間が流れる。
ラントアがギシっとベッドを軋ませてスーラの横に座ると、その髪に触れる。
「仇でないならば、お前は俺を受け入れてくれるのか?心の底から、俺を愛してくれるのか?だが、それは俺への本当の気持ちなのか?今までは仇だから、それだけで俺を受け入れなかったのか?だったら、お前の俺への気持ちはその程度のものだったと言う事だろう?やはり…スーラの心は俺にはなかったという事…か。」
「ラントア、僕はラントアの子を産むの?」
いつの間にか、瞼を開けてスーラがラントアを見ていた。
「スーラ、起きたのか?」
「ラントアの手がくすぐったくて…なんだかぼーっとしていてあんまり色々と覚えていないんだけれど…僕はラントアの子を産んでいいの?」
「…産みたいか?」
「僕っ!」
「どうした?」
ぎゅっとラントアの腰にスーラが手を回した。
「産めるなら…産んでいいなら…ラントア…との子が欲しい。」
回した腕から熱を感じ、スーラの体が震えているのがわかる。
「…そうか。」
「ラントアは?」
「え?」
「僕との子供…欲しい?」
先程までとは違う、自分へ向けられる潤んだ瞳、誘う唇、その吐息までもが部屋を淫靡な空気に変えて行く。
「抗えないほどにな…スーラ、お前の心、お前の身体、お前のその全てを俺に奪わせてくれるか?」
「奪うの?愛してくれないの?」
「愛だけでは足りない…お前の全てを俺のものにしたいんだ。俺がお前からその全てを奪っていいか?」
「ふふ…奪うなんて強いこと言う割には弱気なんだね?」
「…スーラ、それが答えか?」
「怖い目…ゾクゾクする…」
かかった前髪を撫で付けると、ラントアがスーラの体に覆い被さった。
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