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第29話
ガルーがノックもそこそこに扉を勢いよく開け放ち、ラントアと大声で名を呼ぶが、次の瞬間その喉元にはラントアの剣先が突き付けられていた。
「おい、どう言う事だ?!」
ガルーがその剣先から逃れるように身を捩るも、ラントアの剣先はそう簡単には逃してはくれなかった。
「おい!俺がお前に何でこうされなければいけないのか、理由位聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
ラントアがその言葉と共に入って来たサンクリウスに視線をやって、顎をしゃくった。
「その術師様に話を聞きたい。その為のお前は人質だ。」
「ラントア様、私には何の事だか、皆目見当がつきません。そんな事より、私よりもその体に長く愛され、彼を受け入れ続けてきたラントア様、可哀想なその人をお離し下さいませんか?」
サンクリウスの言葉にガルーは真っ赤になるが、ラントアの方は想定内とでも言うように、顔色一つ変えなかった。
「私が何者か、理解されているようですね?」
「生き残っていたのか…。」
ラントアの言葉にガルーが色めき立つ。
「まさか、彼の国の生き残りって…お前自身の事…だったのか?!」
ガルーの言葉にサンクリウスが一瞬キョトンとした目で視線を返すが、すぐにふふふと笑い出した。
「そうでもあり、そうでもない。」
ラントアの言葉にサンクリウスが笑うのをやめて、しかしその口元には微笑みを浮かべたままガルーに語りかけた。
「そう、ラントア様の言う通り、私は彼の国の生き残りではないが、しかし彼の国の者と言えないこともない。ガルー、理解できますか?」
妖艶な瞳でガルーに近付く。
「ちっ!」
ラントアが舌打ちをすると、ガルーの喉元に突きつけていた剣をしまった。
「そのような術を使う程にあなたがガルーを気に入っているならば、そいつを連れて行けばいい。しかし、この国とは縁を切って頂く。今のあなたにも、そしてその前のあなたにも。」
「ふぅん、ガルーで手を打てと?」
「あなたが言う通り、私がこの身を賭してまで側に居させようとした男です。あなたにとっても不足はないはず。」
ふふふとガルーにまとわりつくようにサンクリウスが顔はラントアに向けたままでその身体に抱きつく。
「まあ、体の相性も良いし、その案に乗っても良いのですが、それではあまりにもハッピーエンドで出来過ぎじゃないでしょうか?だから、私はこちらではないあなたの大事な方達を頂いて、この国から出ていく事に致します。それでは…」
言うが早いか、一瞬でサンクリウスの体が煙のように消えた。
「しまった!」
ラントアがベッドに振り向くと、そこで寝ていたはずのスーラの姿はなく、かかっていた布がその姿形をとどめているだけだった。
「スーラ!」
ラントアの悲痛な叫びに消えたはずのサンクリウスが高笑いで答えた。
「可哀想なラントア様…そうだ!子の産まれる前までに私達を捕まえられたらスーラを返して差し上げましょう。この種族だと…約半年程。スーラと子供への愛とやらを私に見せて下さい。あなたが私を、スーラ達を探し当てる日を心待ちにしております。それでは…。」
サンクリウスがそう言った後には、部屋の中にはただ静かな時が流れるだけだった。
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