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第30話

「ラントア、どう言う事か説明しろ!」 サンクリウスの毒気に当てられていたのか、黙ったままでいたガルーが突如ラントアの肩を掴み食ってかかる。 「お前が見た、聞いたままだ。俺だってまさかこう言う展開になるとは…スーラ…くそっ!」 ガルーの手をはたき落とし、ベッドに力なく腰掛ける。 まだスーラの温もりの残るシーツを撫で、かかっていた布を手に取り顔を埋めた。 「お前…あいつに俺を渡す気だったのか?」 ラントアの体がビクッと反応する。 静かに顔を上げるとそこにはいつもの人の良さそうなガルーではない、鬼の騎士団長としてのそれがいた。 青ざめた顔で一瞬怯んだラントアの体に馬乗りになるようにガルーが覆い被さる。 「やめろっ!」 「本気で俺をあいつに渡す気だったのか?!おい、ラントア!」 顔を背けようとするその頭をぐっと掴み、自分の視線と合わせる。 「逃げてんじゃねーぞ…おいっ!」 最後の言葉が部屋に響き渡る。 「わる…か…った。」 ラントアの謝罪の言葉に寧ろそれが真実だと分かり、ガルーの顔が怒りでみるみる赤くなっていく。 「ガル…ー、痛い…」 頭を掴む手に一層力が入り、ミシッという音が聞こえて来そうなほどの痛みにラントアが許しを乞う。 「ガルー、すまなかった…どうかもう…くぅっ!」 「お前の頭をこのまま潰して、その身体だけ俺のモノにしてしまおうか?!」 それが冗談とは思えぬほどの力で掴まれ、ラントアの手足がバタバタと抵抗の意を示す。 「ラントア…サンクリウスっていうのは何者なんだ?」 ビクッとラントアが反応し、ばたつかせていた手足が止まった。 「それは…。」 「お前、知っているんだろう?言わないなら、本気で潰すぞ!」 「やめっ!!うぁっ!!!」 「嫌ならさっさと言えよ。ほら!!」 言いながらその手に力がこもる。 「くぅっ…ああああああーーー!!」 ラントアが痛みと恐怖から悲鳴を上げた。 「さっさと言えよ!俺を誰に渡そうとしたんだっ?!」 「に…いさ…んだ。」 痛みで荒くなる息の中で、ラントアが必死に声を絞り出し、ガルーに答えた。 「はあ?!」 ガルーの手が、驚きの余りラントアの頭から滑り落ちた。 それが肩を掴んでラントアを揺さぶる。 「どういう事だ!?」 「サンクリウスと名乗っていた…あれは、俺の兄さんだ。この国の正統な王となる者だ。」 「死んだはず…だろ?」 分からないと言うようにラントアの顔を凝視する。 「俺もそう思っていた…ずっと…月が… 月明かりが見せる幻覚だと…」 「何の話だ?」 「いいんだ。…ともかくあれはこの国の王となるはずだった俺の兄さんだ。実の所、俺にも分からない事だらけでお前に詳しい事を言えるほどの情報はない。だが、あれは兄さんだ…そしてガルー、お前をモノのように取り扱った事、本当に申し訳なかった。」 「そうか…だったら、それを言葉だけでなく態度でも示してもらおうか?」 ラントアの言葉でガルーの顔が雄のそれに変わり、ラントアの顔が青ざめる。ガルーの下から這い出そうともがくが、肩をぐっとベッドに押し付けられ、ラントアの動きが止まった。 「その身体で俺に謝罪し、許しを乞えよ。さもなければ、俺は例の約定を破棄する…ちょうど正統な王子様もいると分かったわけだしな…俺はどちらでもいいんだぜ?」 「だが、今は…スーラを探しに…」 「だったら尚更、お前一人じゃ無理だろう?ほら、さっさとしろよ…俺をその奥深くに受け入れ、その証を俺に示せ!」 羽織っていたガウンを引きちぎるように脱がされたラントアが唇を噛むが、すぐに意を決したようにガルーの上に跨った。

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