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第32話

ラントアに好意を持ち始めたのはいつからだったろうか? 意識を失ったラントアの髪を撫でながらガルーはまだスーラのいなかった頃の事を思い出していた。 彼の国の者との間に産まれた兄王子が亡くなった事で、次男でありながらこの国の王となる身として育てられたラントア。 本当ならラントアは王にはなれなかった。 彼の国との約定では、この二つの国の者達の間に産まれた子を王にすると明記されていたが、それを書き換え、ラントアを王となる者とした。 子供ではあったが、ラントアを守る者として特別にその話をガルーは父から聞かされていた。 ガルーは従兄弟としてその近くに身を置き、ラントアの全てを見守って来た。 その力となる為、剣の腕も磨き、若くしてこの国の騎士団長となった。 異例の出世も、王家の親戚筋だからなどと言う陰口や嫌味を言わせぬほどの腕を見せつけて誰にも何も言わせなかった。 昔は良かった。 幼い頃は皆に内緒で城を抜け出し、二人きりで野山を駆け回った。 キラキラとした太陽にも劣らぬラントアの自分に向けられる笑顔。 絶対にこの笑顔を俺が守る。守ってみせる! そう子供心に誓った。 思えばあれがラントアを特別だと思い始めた時だったのかもな。 そして書き換えなどと言う事さえなければ、ラントアはこの国にとって要らぬ王子。 ラントアを俺のモノにできたのかも…。 寝息を立てるラントアをガルーが静かに、しかし何かを考えるように見つめる。 俺はラントアさえいればいい。ラントアだけが欲しい。 「ならばそうすれば良い。」 聞き覚えのある声が耳元で囁いた。 「サンクリウス…様。」 驚く事なく、静かにガルーが頭を垂れた。 「ふふふ…ガルー、何故私に様を付けるのですか?」 威厳のある声が一転して、面白がる声に変わった。 「兄王子と知ったのですから、当然の事。」 「そう、ラントアは言ってしまったのですか…つまらない。」 さーっと部屋の空気が冷たく変わり、サンクリウスがその身をガルーの前に現した。

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