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第38話
「くそっ!バカガルー!!絶交だ!もうあいつとは絶対に絶対の絶交だ!!」
ラントアが目を覚まし、薬のせいか少し目眩のする体を起こしながら、自分以外誰もいない部屋で大声で悪態を吐く。
「っかやろう!誰が俺から離れろと言った…勝手に人の気持ちを忖度してんじゃねーよ!あぁっ、くそっ!!」
まるで王子とは思えない荒い言葉を吐き続ける。
「っかやろう…絶交だっていなきゃ意味ないんだよ…ばか…」
ラントアの口から嗚咽が漏れる。
ベッドの上にそれと分かる染みができていく。
「証まで取り上げやがって、これじゃあ動きようがない…くそっ!」
どんとベッドを拳で叩く。
「スーラ…この国にいてくれさえすれば、まだ…いや、やはり…」
諦めるしか…
過った言葉を頭の中から振り払うように、激しく頭を振る。
「探さないと…スーラを探しにいかないと!」
「無駄な事を…」
部屋の床から声が聞こえた。
「サンクリウス…」
黒い影がゆらーっと床から立ち上がる。
「荒れているな…」
「誰のせいだと…っ!」
今にも飛びかかりそうになる気持ちを抑えて、ラントアがベッドから下りる。
「ガルーは?」
「いるよ、私と共に。」
「返せっ!」
「ガルーが選択した、私を。」
「それでも、返せっ!」
「まったく、話にならないな…まぁ、返したところでお前の知っているガルーではないけどな。」
「ガルーに何をした?!」
影の中に手を突っ込むが、それは一瞬形を崩すだけで、すぐに戻った。
「影を捕まえることなんて出来はしないんだよ…ガルーは心を私にくれた。」
「それじゃあ…」
「もう、誰の声も届かない。深い深い心の奥底の底で眠っている。」
「何でっ?!」
サンクリウスの影がラントアに近付く。
「それが、ガルーの私への証明。ふふっ…そう、それだけの為に自分の心を明け渡した。」
「なんて事をっ!」
「今はもう、私の言う事だけをきくお人形…だが、それでいい。お前を守れる…」
ラントアに影の手が伸びる。
しかしそれは、顔に触れる寸前で煙のように消え去った。
「俺を…守る…?」
サンクリウスの残した言葉にラントアの心が乱れる。
「何を言っているんだ?何で、守る?あいつは何を考えているんだ?俺から全てを取り上げておいて、守る?」
ベッドに腰掛け、頭を抱える。
「何がどうなっているんだ?俺の知らないところで、身勝手に動きやがって…あぁ、くそっ!
まだ気分が悪りぃ…ガルー、さっさと帰って来い…俺に変な薬飲ませた罰、くれてやるから…さっさと帰って…来い…」
ベッドからは再び横たわったラントアの寝息が聞こえて来た。
そしてその頬には誰も拭うもののない涙の跡が一筋、月明かりにキラキラと輝いていていた。
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