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第3話 猟犬様より、愛を込めて③
稀少なドラゴンは、無事に偉い人たちが運んでいってくれた。希望は心からほっとした。
本当によかった。本来なら、神殿か博物館か、あるいは女王陛下に献上されるかもしれないような宝なのだ。自分には身に余る。とても綺麗だとは思ったけど、大き過ぎて部屋に置いておけない。
ライは代わりに、ドラゴンの大きな鱗を数枚、希望に差し出した。
透き通った青と緑が入り混じって、太陽に当てると虹色に輝く。鱗同士を擦り合わせたり、ぶつけたりすると、その色に相応わしい澄んだ音色が高く、響き渡った。
こんなに綺麗なものがこの世にあるなんて知らなかった。希望の金色の瞳も負けじと輝いて、宝物を見つめていたが、ハッとして顔を上げた。
「あ、ありがとうございます、大事にします……!」
ライを見上げると、じっと見つめられていた。
緑色の奥で青が揺らめく、不思議な色だ。ライの瞳をしっかりと見つめ返したのは初めてで、こんなに綺麗な瞳の色をしていたのかと驚いた。
ライに言いたいことがたくさんあったはずなのに、今は何も言葉が出てこない。強い眼差しに耐えられなくて、希望は俯いてしまった。
ライは、希望と初めて出会ったあの日から、希美をいじめていないらしい。希美は不気味がっていた。
……もしかして、俺がいじめないで、って頼んだから? 許さないぞ、って怒ったから? 俺のお願いを聞いてくれたの?
もしそうだとしたら、これまでの贈り物攻撃は、ごめんなさいの気持ちだったのかもしれない。
そう考えて、希望はもう一度顔を上げた。
「あの……、ライさんの気持ちはわかったから……俺ばっかり、いっぱい貰っちゃってごめんなさい。お返しに何か欲しい物はないですか?」
「欲しいもの……」
じっ、とライに見つめられて、希望は首を傾げた。
欲しい物、考えてるのかな?
ライさんだったら、なんでも自分で手に入れられるのかな。キジだって、イノシシだって、ドラゴンだって狩っちゃって、こんなに綺麗なものも獲ってこれるんだもん。
でも、そしたら俺は何をあげたらいいんだろう?
少し答えを待ってみたが、ライは希望を見つめて黙っている。
希望が目を逸らせずにいると、ライは手を伸ばしてきた。
ライの指先が希望の頬に触れる。僅かに希望が震えたが、ライは構わず指の背で頬を撫でていく。
大きい手だ。強そうで、重そうな拳が、その指先が、ゆっくりと丁寧に自分に触れていることが不思議だった。
けれど、顎の下をくすぐるように撫でられると、心地よさにうっとりと目を細めてしまう。もっと、もっとと強請るように、顎を上げて首を晒してしまっていることに、希望は気づいていない。
「……少しは慣れてきた?」
「ーー……っ!?……あっ……!」
我に返ってライの手が届かないように少し離れた。けれど、ライはずっと希望を眺めて、笑っている。より深く、目を細めた。
「そろそろ、口説いていい?」
思わず頷いてしまいそうな低く甘い声。妖しく光る深い緑の瞳。試すような笑み。
希望の頭がくらりと揺れた。
次の瞬間、希望は逃げ出していた。
本能の警告に従って、少しでもライから離れようとただひたすら走った。
ライは追って来なかった。
ただ、一度だけ振り返った時、黒い尻尾はゆらゆらと誘うように揺れていて、ライは希望を見つめ、やたら楽しそうに笑っていた。
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